垂直落下式サミング

スーパー・ハイ・ミー 〜30日間吸いまくり人体実験〜の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.4
『スーパー・サイズ・ミー』に影響されたバカが、30日間マリファナを吸いまくり、大麻は薬か毒かを検証するドキュメンタリー。
要は昨今流行りの「ドラッグ吸ってみた」というやつでYouTuber的な発想だ。被験者となる主演の男は長年マリファナを吸い続けてきたスタンダップコメディアンのダグ・ベンソン。カメラはこのバカが楽屋で女傑サラ・シルバーマンにハッパを嗅がせようとする暴挙をとらえており、映像に確かな血肉を通わせている。カリフォルニア州では医療目的の大麻の使用が認められており、それにまつわる歴史を交えながら、彼のライフワークである漫談の様子と人体実験記録が映像で綴られる。
当実験にあたって、彼は一度大麻を抜いた状態(シラフ)にならねばならず、大麻断ちの最中は漫談のなかでも辛い辛いとぼやくのだが、ようやく吸うことをゆるされた後半では、薬物が潤滑油なのか舌の回転がよくなり、日が経つに連れてまさに水を得たようにうんこちんちんネタ一点突破のジョークがキレを増していく。
しかし、「健康に影響はありませんでした。気持ち良くなります。吸っていいです」という締めくくりは、検証としては面白いが論として提示するものとしてはやや不十分で、本作は『スーパー・サイズ・ミー』のように食品業界や医療機関を巻き込んでいったり、『ステロイド合衆国』のように過剰に向上心を煽るアメリカ的な文化の深淵に蔓延る根深い病理に斬り込んでいったりと、ミクロからマクロへと問題に向き合う視野がなかったように思う。本作だって、問題をより深く掘り下げ、「~よって、この実験の結果から大麻は無害であると結論付けます。では、なぜ法律で規制されるのでしょう?なぜ人々は薬物を悪だと言うのでしょう?」と続け、アカデミックな領域に足を踏み入れることは可能だったはずだ。
麻薬の合法化については、有害か無害かという単純なものでもなく、未だにドラッグの幻覚作用による意識拡張の進歩性を唱える人が多いからだとか、違法にしとくと麻薬カルテルの資金源になるから暴力団に金を流すくらいなら合法にしちゃった方がいいとか、様々な要因があるわけで、人体への影響があるかないかだけで判断するにはあまりに惜しい題材である。
合衆国憲法と州ごとにある独自の州法に矛盾が生じてしまうことへの追求などがあれば記録映画としての格も上がったろうに、何とも惜しい。