垂直落下式サミング

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

5.0
カメラは、そこにあるありのままを切り取ってしまう。その場で起こっていること、そっくりそのまま記録する。本来、そういう媒体だ。だから、そもそも物語性なんて入り込む余地はない。
映像に作為を持たせるとは、元来無茶な試みなのである。普段僕らがみている劇映画には、当たり前にドラマ性があるような気がするけれど、それはエイゼンシュタインらによる研究があってこそ。もともと、映像とは嘘のつけないメディアだった。
なのに、優れた映画であればあるほど作為的で人工的。人の心を動かすのはいつだって物語。切り貼りすることで、連続性のなかに作為を入れ込める。これは映画の大発明だった。その編集作業は、人の感情に肉薄させようとするほどに、その像は嘘になっていく。そういうもののはずだ。
虚構とリアリズムは相克するゆえ、ドキュメントにドラマ性の付与はなし得ない。そのはずだったが、本作は違う。実話過ぎて、リアルすぎて…。こういう状況においては、ただ撮るだけの行為が物語性を持ってしまう。
写されていることが、あまりにも最悪で直視できなくて、男の子と赤ちゃんのところでスクリーンから目を背けて泣いてしまったし、砲塔が病院に向かって動くところは不整脈おこすくらいゾワッと…。
そこにいる人、ひとりひとりに、人生という物語がある。家庭があって、仕事があって、友達がいて、恋人がいて、子供もいるかもしれない。それぞれに名前がある。報道は彼らの名前を、しっかりと言う。なんと言われようとも、可能な限りを伝える。その責任がある。
僕は、誰が悪くてこんなことになってるかは詳しく知らない。推定25000人の民間人の死者が出ているとのこと。こういうやつにもわかるように、ただそこにある悲劇を記録する。それが、しっかり映画になってしまう。…ダメだね。てんでダメだ。こんな映画が作られてちゃダメなんですよ。断固として。