猫脳髄

ジョイス 密室の狂気の猫脳髄のレビュー・感想・評価

ジョイス 密室の狂気(1987年製作の映画)
3.5
「ヘルマザー/鮮血の愛」(1988)の監督、チャック・ヴィンセントがハードコア・ポルノ時代からの盟友ヴェロニカ・ハート(本名のジェーン・ハミルトンでクレジット)を主演に据えたサイコ・スリラー。

父親の死以来、精神的に不安定だったハートが、強盗に襲われて流産したことをきっかけに危うい均衡が崩れ始めるという筋書き。基本的にハートが住む高級アパートメントを舞台にした室内劇で、ひとりきりのはずの室内に彼女の記憶のなかの人物が次つぎと現れ、現実の来訪者と錯綜しながら彼女を狂気の淵に引きずり込む。形式としてはロマン・ポランスキー「反撥」(1964)に似るが、こちらはより賑やかである。

セット撮影による長回しワンカットで人物が入れ替わったり、主演の移動に合わせてフレーム外から出現したりと、制限された空間に人物を自在に登場させる手腕はなかなかのもので、もう少し変化をつけたり、途中からカットを割ったりせずに一貫すればより評価は高かった。赤ちゃんをベビーベッドから抱き上げて、ハートがくるりと回ったときには枕に変わっているというのはなかなかゾッとする。

富裕層ながら暗い過去を背負った孤独な主婦が狂気に囚われていく過程をハートが迫真に演じており、ハードコア・ポルノ出身とはいえ、もとは演劇の学位持ちという彼女のポテンシャルを感じる。WHD/FOWARDリリースのなかでも優良作。
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