ちなこ

ミュンヘンのちなこのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
4.5
目には目を。テロにはテロを。

「September5」を観たので再鑑賞。
双方の作品が補遺し合っていますね。

1972年9月5日ミュンヘン五輪事件。
イスラエルの選手11人が、パレスチナのテロ組織「黒い9月」によって殺害される。

今作はその事件の復讐として、テロに関与した11人を殺害するため、イスラエルの諜報機関モサドは報復部隊を結成する。

通称“神の怒り作戦“
名前が物々しい(;´Д`)

とはいえ、イスラエルは国として他国に赴いて殺害行為をするわけに行かない。
(そもそも、イスラエルは報復として、既にパレスチナへ空爆もしている)


主人公アヴナーは隠密行動特殊部隊のリーダーとして任命される。
もうすぐ、父になる予定のアヴナーだが、祖国の為と言われ、チームを率いることに。
爆弾製造、偽造文章作成、搬送、死体処理、それぞれのプロ達がアヴナーの元に集まる。

文字で書いていると、特攻野郎Aチーム的な映画みたいに見えてきてしまうが、メンバーは、ミュンヘン事件に対して憤りはあるが、お金で雇われた普通の男達。
人殺しのプロではない。


はじめてのあんさつ。
ドキドキしながら最初のターゲットを仕留める。
作戦が成功した高揚感に乾杯する。
自分たちは祖国の為にやったと!いう錦の御旗に酔いしれるメンバー。

その後、2件目、3件目、、と報復行為を続けていく。
そんな中、テレビのニュースで、自分たちの報復行為への、更に報復行為としてのテロ事件が報じられる。

死の無限ループ。
そして、とうとうメンバーの1人が殺される。。。





イスラエル、パレスチナ、双方どちらも、ただの人間として描く今作。
ユダヤ人のスピルバーグ監督が、終わらない負の連鎖、テロ行為の虚しさを、双方を正悪で描かない、その視点を素晴らしいと思う。
ザラザラした質感の映像が、ドキュメンタリーのような緊張感を感じる。
主人公の信じた正義や祖国、葛藤、疑心暗鬼、虚無感、、様々な感情を追体験し、一緒に沈んでいく気持ちになる。


作中で、違う音楽を好む同士が、折衷案でジャズを選んだシーン。
監督の諦めたくない、映画の力を信じている想いを感じる。



ラストの曇天模様のマンハッタンの背景。
2005年製作の今作。
静謐な怒りと悲しみ。
ミュンヘンオリンピックから33年経過している。

それから20年経った現在でも、負の連鎖は呪いのように続く。
この映画が変わらず重く響くことを、とても苦々しく感じてしまう。


次の20年後に見る時には、
そんなこともあったね、あの時は嫌な時代だったね。と、過去の歴史映像をみるような気持ちになれたら、、と切に願いたい。
(>人<;)
ちなこ

ちなこ