SEULLECINEMA

ガートルード/ゲアトルーズのSEULLECINEMAのレビュー・感想・評価

5.0
この厳粛さと精神性の高さはなんなんだ一体。途中から正座して観てしまった。儀式のような空間構成と自律的なキャメラ・ワークから生み出される緊張感と厳粛さが素晴らしい。
傾斜と水平、決して交わらない視線、扉の開閉。
ハリウッド的な規範に従えば、2人が正対し、見つめ合っていることこそが正統な愛の表象であろう、しかしながら、このフィルムにおいてはそれと真逆の表象が行われている。視線が交わる瞬間には、決定的な断絶が必ず横たわっている。傾斜のある状態で話すとき、話はうまく噛み合わない。水平に座ることで、視線を交えずとも本音で話すことが可能になる。扉の開閉は愛に直結してしまう。
ドライヤーは、以上のような最低限の表象と会話劇のみで、愛と人生という最も大きな主題について語ることを可能にしてしまうのである。その精神性の高さは、ベルイマンや濱口竜介ですら太刀打ちできないだろう。
箴言や長台詞などいらない。愚にもつかないメロドラマなどいらない。感情をむき出しにした会話劇などいらない。ドラマチックなデクパージュなどいらない。ただひたすらに、厳粛に、粛々と、目の前の儀式的な運動をキャメラに収めるだけでよいのだ。それだけで、これほどまでに美しく箴言めいたフィルムが撮れてしまうのだ。
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