トーキー初期のせいかアフレコの芝居はたどたどしい ところどころで見せる目の覚めるような構図が美しかった
つらい境遇の面々が好人物のバス運転手との淡い恋のやりとりで束の間の美しい時間を過ごす
こちらと同じモチーフと構成でバスの中の幸せな交流の空間を温泉に置き換えたものが『按摩と女』だろう
完成度は様々な面でブラッシュアップされた按摩と女が上であるかもしれないが 軸となる演出や構造はこの作品ですでに登場している
善意溢れる運転手とそれを慕う街道をゆく人々のやり取りが作り出す多幸感と運行の中で過ぎ去っていく儚さ この点は温泉街を舞台にした按摩と女にはなく 甘美で儚い美しさがあった
川端康成の力に負うところも大きいのかもしれない 原作を読んでみようと思う
バスの中という限られた空間で芝居やカット割りを工夫し飽きさせない清水宏の演出手腕は見事
朝鮮の少女とのやりとり その後の遠ざかるトンネルの口のイメージが鮮やかだった 雪国の冒頭を思い出す
辛い浮世の気持ちを晴らすように石を投げる人々の姿も美しい 按摩と女でも同じように石を投げる男女が登場していた
秀作