櫻イミト

自由への闘いの櫻イミトのレビュー・感想・評価

自由への闘い(1943年製作の映画)
4.0
フランスを代表する巨匠ルノワール監督のハリウッドでの第二弾。戦時中に作られた反戦ドラマ。原題は「この国は私のもの(This Land Is Mine)」。

ナチス占領下のヨーロッパのある国。中年の小学校教師(チャールズ・ロートン)は母親の溺愛の元で暮らし、思いを寄せる後輩の女性(モーリン・オハラ)に打ち明けることもできない温厚で内気な男だった。しかし敬愛する先輩教師や神父が連行され、彼女のレジスタンスの弟が逮捕されるに至って、彼が内に秘めていた正義に目覚めていく。。。

同時代の反ナチ・プロパガンダ映画とは一線を画す真摯な反戦映画。敵国の抑圧に迎合する大衆ひとりひとりの姿勢を問う、静かで厳しいメッセージが込められている。親しい人々の死のシーンに感傷的な劇伴を流すようなことはせず、母親の愛ゆえの罪さえ指摘し、ファシズムに負けないためには人間の尊厳を守る勇気と強い意志が必要なのだと説いている。終盤は思わず背筋を正し、自問自答しながら鑑賞した。最後の授業で主人公が子供たちに語って聞かせる「人間および市民の権利の宣言」(フランス革命で発表された声明)が身に染みた。

同調圧力に屈しやすい日本人にとっては大変に厳しい一本。

本作の舞台は”ヨーロッパのある国”と設定されているが、モデルは当時ナチスに占領されていたルノワール監督の祖国フランスと思われる。プロットは同年に作られた、ドイツからの亡命者サーク監督「ヒットラーの狂人」ラング監督「死刑執行人もまた死す」と類似が見られるが、メッセージはラング監督の方が近い。

※この年のアカデミー賞では本作が、同時にノミネートされた「死刑執行人もまた死す」を押さえて最優秀音響録音賞を受賞している。他にプロパガンダ映画としてはフォード監督「真珠湾攻撃」が最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞。

※モーリン・オハラは18歳の時に受けたロンドンでのオーディションでロートンに見出され、「巌窟の野獣」(1939)「ノートルダムのせむし男」(1939)で相手役にキャスティングされた。
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