くりふ

マイネーム・イズ・ハーンのくりふのレビュー・感想・評価

マイネーム・イズ・ハーン(2010年製作の映画)
3.5
【カーンとハーン】

本作は普通にレンタルできることを知らず、み逃していました。劇場未公開ですが、確かに扱いづらい気はしますね。いい映画なんですがちょっと歪で、どこか欠損感もおぼえました。まだ消化できていないんですが、とりあえず思うところ書いてみます。

9・11実行犯の仲間だ!と見られ差別される米国内ムスリムのお話。主に在外インド人向けでしょうか?ボリウッド映画ですが配給は20世紀FOX。珍しく歌わず踊らずハリウッド風の味付け。

しかしボリウッドに短しハリウッドに長し…という印象でした。尺という意味だけでなく。

シャー・ルク・カーン(Khan)演じるリズワン・ハーン(Khan)が…ってここでまず引っかかるんですが(笑)、劇中、発音はカーンでなくハーンだ、と彼が周囲に何度も抗議するんですよ。だから日本でのシャー・ルク・カーンという記述はいいのかってことがまず引っかかっちゃった。

イスラム教徒のリズワンは、カージョル演じるヒンズー教徒マンディラに惚れ猛アタックするも、9・11テロが勃発。ムスリム憎しの風潮が、マンディラにとっては最悪の事態を引き起こす。

絶望した彼女はリズワンに、とある無茶難題を突きつける。リズワンは彼女に応えるべく、北米大陸横断(彷徨?)を始める…。

絶望したマンディラの、リズワンに対する決断が飛躍しすぎとは思った。当時は褐色人種全体が差別されていた筈だから。しかしインド人としては、感情的にはこう反応しちゃうんでしょうね…。

そこは後追いでわかる気もしましたが、他にもっと大きいところで気になることが。2010年の作品ですが、作られるのが遅い気はしました。事件当時からインド系への差別は酷かった筈だし。結末からみてもこれ多分、オバマ政権になったから実現した企画じゃないだろうか。ブッシュの時だったらもっと説得力ある映画になった気がします。

また、リズワンに障碍を持たせる必要があったんだろうか?ハンデを持つからこそ純粋なんだ…的なよくある欺瞞を感じてしまった。

この場合、米国で成功をおさめたインドの男が、それをかなぐり捨てて愛する人のために奔走する…という筋の方が、個人的にはまだ、素直に共感できた気がします。リズワンをヒーローっぽく仕立てちゃうのはいつものボリウッドなので微笑ましかったですが(笑)。

ムスリム危険分子の描き方はこれでいいのか?と首傾げた。彼らの聖域である筈のモスクで堂々とクーデターが進行しちゃうってそういうもんなの?また彼らって同胞を殺しても天国行けるのだろうか?やっぱイスラム教徒って怖いわ…と素直に思っちゃったんだけど(苦笑)。

そもそも9・11の実行犯が「敬虔なイスラム教徒」かどうか怪しかったり、ビンラディンが犯人である証拠をFBIが掴んでいなかったり…と不透明なことがまだあるのだから、そのへん触れてもよかったと思う。

…という辺りがとりあえず引っかかったところです。切実なテーマをきちんと追いかけているから、中盤の辺りはかなり惹かれたんですけどね。

ロードムービーとしての面白さがあるし、リズワンが、イラク戦争で家族を失ったマイノリティたちと触れ合う辺りなども共感できました。

あと、カージョルさんの演技は説得力ありました!この方、時々美人なのかそうでないのかわからなくなるのですが(笑)、要は時々三枚目っぽくなるんですね。しかしそれが、華やかでもちゃんと地に足をつけ生きている、ワケあり女の魅力につながっているんですね。

シャー・ルクの方の、「レインマン演技」は、私にはなんとも言えません…実際の症例がこうなのか知らないので。

全体、脚本の段階でもう一声、ブラッシュアップした方が良かったろうな…というのが初見での感想でありました。肝となる「マイネーム・イズ・ハーン。ぼくは…」のアイデアはすごくわかりやすかったんですけどね。

<2013.12.16記>
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