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ザ・バニシング-消失-のhasseのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
4.2
演出5
演技4
脚本5
撮影5
照明4
音楽4
音響3
インスピレーション4
好み4

○「私は飛び下りることを想像した。なのに飛び下りないことが当然か? そんなことを誰が決めた。逆らうには飛び下りるしかない」(レイモン)

真実や物事の意味を追求する愚かしさを、この映画はまざまざと見せつけてくる。

レックスは三年前に失踪した妻サスキアの捜索に乗り出す。そのきっかけは、妻がよく見ていた夢を自分も見たから。
サスキアを拉致した男レイモンが接触してきて、真実が知りたければついてこい、と誘う。レックスはサスキアの見に起こったこと知りたさにレイモンの言うがままになり、最後はサスキアと同じ運命を辿る。
レックスの行動原理は妻への愛や正義感以上に真実を知りたいという欲求が大半を占めている。レイモンの言いなりになることは危険だと分かっているはずなのに口車に乗せられ、身の破滅に至る。「なんてバカなやつだ」と一蹴しがたい、決して他人事とは思えない展開が胸に突き刺さる。

反社会性パーソナリティ障害を持つ異常者として描かれるレイモンだが、レックスもまた、真実や意味の病に冒された潜在的な異常者と捉えることができるだろう。真実に対する過剰な欲求は精神を蝕み、適正な判断能力を失わせ、やがて身を滅ぼす羽目になる。

また、サスキアとレイモンの顛末は、最初にサスキアが「予告」している。トンネルの中で話す夢だ。金の卵に閉じ込められて、孤独に宇宙を漂う。金の卵はいつもは一つだが、昨日は二つだった。
夢という意味ありげなモチーフを、二人のラストに結びつけることは容易だし、木箱の中のレックスの両足のソックスに空いた穴から突き出た二つの親指、最終カットの新聞の見出しの顔写真のフレームが金の卵の隠喩となっている。
それらを関連付けしてヨシ、と思うのが正解なのか分からない。レイモン風に言うならば、それが当然だと誰が決めたのか? 逆らうには、意味に頼ることをやめなければならない……。
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