危険で不可解なものに恐る恐る惹かれてしまうのは人間の性。
その好奇心の裏側には「自分がこんな不条理な目に遭うはずはない」という無意識の自信があるのではないでしょうか。
私たちはそもそもどんなに恐ろしい映画を観ていても、それはスクリーンの中の世界であって、客席は安全であることを理解しています。(もちろん、映画に集中してしまえばそんなことは忘れてしまいますが!)
だから、主人公の身に降りかかるピンチに「やめて!」と思いながら「もっとやれ!」とも思っているはずです。最後には何かしらの「解決」が見つかることも期待しているでしょう。
この映画は、そうした観客の心理を逆手にとり、踏みにじり、非常に不快な気持ちにさせることに成功しています。冷酷で渇いたラストに残る後味の悪さは一級品です。
また、殺人犯のただただ恐ろしい日常を、ユーモアをもって描く抜群のセンスにも舌を巻きました。