Ricola

青いガーディニア/ブルー・ガーディニアのRicolaのレビュー・感想・評価

3.9
フリッツ・ラングらしい緊張感の張り詰める場面や、見事なサスペンスの見せ場はあるものの、ラングらしさが前面に押し出された作品ではない。
むしろルビッチのような、洗練された雰囲気の作品という印象が強かった。
洒落た会話や、緊迫感以上に軽妙洒脱さの感じるラストが特徴的である。


この作品において鏡はキーであり、やはり印象的である。ブルーガーディニアという中華レストランで、演奏するバンドの後ろにあり、彼らの後ろ姿を斜め上から映す。ほぼ同じような画角がプレブルの家の中で再現される。彼の家の居間に大きな鏡があり、そこに二人の後ろ姿が映っている。
そしてその鏡が割れてしまう。
そこから物事は狂い始め、水が渦巻く映像や目の前がぼやける映像が流れる。それは、人物の感じている混乱に我々まで導かれるようである。

主人公ノーラの失恋と彼女の友情、そして孤独が丁寧に描かれているのも、単に事件の真相を追うだけのサスペンス作品に留まっていない一因である。
ノーラ自身の記憶が曖昧であること、それは観客も同じである。ノーラが自分自身をも信じられない状況で、しかも事件を煽るマスコミや世間にも追い詰められていく。その彼女の精神的状況を、我々も感情移入を通して体験する。
さらにここで特筆すべきは、そもそも彼女がこの事件に巻き込まれる前に、落ち込んでいたということである。
そもそも不安定な精神状態からスタートしている。

個人的に興味深く感じたシーンがある。それは、照明を点滅させる中でノーラがある人物と対面するシーンである。
この出会いの緊張感は、ラング監督の『スカーレット・ストリート』の名シーンを彷彿とさせる。
またこのシーンの場合は、何も信じられない状態のノーラが藁にもすがる思いで彼と会っており、その彼女の疑心暗鬼な心持ちが表された演出となっているようである。

前述の通り、ウィットに富んだ台詞回しが、まるでルビッチ作品のようである。
遊び相手の女の子たちの連絡先の書いたメイヨの電話帳についてや、ノーラがルームシェアをしている友人の一人のクリスタルの男性の扱い方に関するアドバイスが、作品のラブストーリーの側面を上品に演出してくれる。

緊張感や孤独、切迫感というサスペンス作品ならではの感情でかき回される中、オシャレなラブコメ要素もうまく付け加えられていて、いい意味でいつものラング監督らしくない作品だった。
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