菩薩

不安は魂を食いつくす/不安と魂の菩薩のレビュー・感想・評価

4.1
不安は魂を食いつくし、結婚は生活を蝕んでいく。冒頭に出る「幸福が楽しいとは限らない」の一言で語れてしまう作品かもしれないが、幸福は「私」にも「あなた」にも掛かって来る言葉であり、あなたの幸福が私にとって楽しいとは限らず、私にとっての幸福があなたにとって楽しいとは限らないのは自明の理である。かつての帝国主義国家の伝統的思考形態とも言える差別思想。他者を貶める事により自らの自尊心を保つ行為は、あの時代、かの西ドイツよりも、今の時代、この国の方がより顕著に現れているのではないか(と書いている自分がその様な人間と同種である事は痛いくらいに自覚している)。愛と搾取の構造が家庭内にある様に、国家(組織)の中には受容(及び供与)と搾取の構造があり、友人、家族、同僚などあらゆる隣人との間にも存在してしまうのが人間の悲しき姿である。産まれて死ぬ迄に一度たりとも差別に遭遇せずにいられる人間も、自らの中に差別感情を抱かずにいられる人間もおそらくはいない、だからこそ闘争が意味を持ってくる。テーマも話の筋も理解し易く、また屋内の色味であったり人物間の間合いの取り方もカウリスマキに近しい故に入り口として適しているのかもしれないが(とか言える程観られてねぇ…)、同時に内容が内容だけに万人に勧めやすい作品でも無いのが困った物である。とりあえず俺のチンコは故障していないと、どうでも良い情報だけを付け加えておきたい。孤独を受け入れるか、煩わしさを受け入れるか、どちらにせよ生きていくのはめんどくさい。
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