ろくすそるす

ルージュのろくすそるすのネタバレレビュー・内容・結末

ルージュ(1984年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

映画『デビルマン』により散々叩かれた挙げ句、病により鬼籍に入られた那須監督。だが初期の監督作『ルージュ』は、柳下毅一郎先生がオールタイムベストに選出しているように、傑作多きロマンポルノの作品群の中でも傑出して輝いていると思う。原作は石井隆先生の「奈美シリーズ」であるが、石井原作の映像化の中でも群を抜いて魅力的に思えた。
 物語自体は裏町が舞台のメロドラマであり、夜の世界、性や水商売を生業とするものたちの「哀愁」や「愛の葛藤」が丹念に描かれている。
 冒頭の掴みも素晴らしくカッコいい。『ヨコハマBJブルース』のメインテーマ、松田優作の歌う「YOKOHMA HONKYTONK BLUES」がかかるのである。
 主人公は風俗雑誌でカメラマン記者をする若い男。素人ものの元AV女優をインタビューする企画に携わるのだが、彼の直属の上司役が関東の漫才ブームを牽引した「セントルイス」の星ルイスであり、「こういう人いそう」と思わせるなかなかの乱暴な編集者ではまり役だ。
 「ルージュ」といういわく付きのアダルトビデオ(作中レイプは現実に起こったものであった)に出演している年上のバーのママ、奈美を密着取材することになった主人公は、あろうことか彼女に懸想してしまう。
 だが、主人公は既婚者。しかも、奈美は奈美で、村木という元CMディレクターのゲス男に利用されている。こいつが奈美を食い物にするとんでもない癖者で、いわゆる「ヒモ」のクズ野郎だが、奈美はどこか憎めない浮ついたダメ人間のなけなしの愛を絶ちきれないでいるのだ。
 やがて、引かれ合う主人公と奈美は選択を迫られる……。
 ちなみに、奈美役を演じる新藤恵美は村木役の希代のプレイボーイ俳優・火野正平と元恋人という間柄であり、現実とリンクしている点でキャスティングも挑戦的と思える。
 だが、なんといっても、魅力的なのは火野正平だ。全盛期から落ちぶれ、裏切られ堕落していった者の哀愁を滲ませている。曽根中生監督の『天使のはらわた 赤い教室』における蟹江敬三の悲哀とはまた違った灰汁の強いものであるが、まさに怪演と言っても良いほどの凄まじい迫力である。
 ともかくVHSでしか出てないのが、もったいない。個人的には相米監督の『ラブホテル』より断然こっちの方が素晴らしい。