マサミチ

飢餓海峡のマサミチのレビュー・感想・評価

飢餓海峡(1965年製作の映画)
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序盤の北海道の場面の荒々しさと言葉は悪いが軍服姿の汚らしさが目に焼き付くのは決して16mmフィルムからブローアップした画面だけの理由では無いと思う。

本当に戦後の荒廃を体験してきた俳優さんやスタッフの気迫が画面に表れている気がするのだ。

逃亡中の三國連太郎演じる犬飼太吉が知り合った大湊の旅館の娼婦の左幸子演じる八重さんが可愛らしい。

たった一度肌を重ねただけの相手の犬飼が金を払う時の少し寂しそうな表情、そして大金を自分に渡してくれた事で彼が部屋に残していった切られた爪をずっと大事にしている女心。

まァ、素直に想いを表してしまうタイプの彼女は男性からすれば多少鬱陶しく感じてしまうところはあるだろうなァとも思うのだが、10年後にそんな尋ねてきた彼女を殺してしまうのは、戦争をくぐり抜けて命を軽んじられた時代の罪もあったと思う。悲しいね…。

後半の取り調べ場面は、科学捜査による証拠固めが当たり前の今の時代の感覚で見ればかなり荒っぽいのだが、この時代(昭和30年代)はまだ強引な取り調べによる自供中心主義だったのだなァと逆に新鮮に感じる部分もある。

三國連太郎さんへのインタビュー本を読んでいて、その流れでこの作品を観たのだが、三國連太郎さん本人も戦中戦後に相当とんでもない生き方を強いられてきたらしい。そんな体験が活かされているのでしょうね。

伴淳三郎のベテラン刑事も高倉健のエリート刑事も皆素晴らしい。

重たいし暗い映画はそれだけで敬遠する人もいるのですが、日本映画史を代表する犯罪映画の名作は観ておいて損は無いと思います。
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