スペイン国王カルロス4世の時代、宮廷画家として活動したフランシスコ・デ・ゴヤ。
有名すぎる「裸のマハ」と「着衣のマハ」など教科書レベルで知られるお人。
この映画はゴヤが生きた18世紀末、スペインの異端審問〜ナポレオン軍の侵攻〜絶対王政の崩壊〜スペイン独立戦争とイギリス軍の進軍からの王政復古という当時の信じられないほど混沌とした世界の残虐さを彼の目を通して描いてる。
まず、異端審問の酷さは知ってはいてもイネスに対する理不尽さと残酷さには身の毛がよだつ。
そして教会の威信のためだけに審問の強化を発案、それを利用し彼女を蹂躙したロレンゾ。
2人の肖像画を手掛けた縁でゴヤもまたこの男女の過酷な運命に集約された歴史、宗教によるただの“見せしめのための冤罪“と侵略という“人間への残忍さ“を目の当たりにするんよね。
宮廷画家として多くの肖像画を残したゴヤ。
一方で社会風刺をこめたグロテスクな銅版画や、後年売り物でなく自宅の壁に残した「黒い絵」と呼ばれる14点の壁画がとにかく圧巻すぎて、自分にとって忘れられない強烈な印象を残した画家なんよ。
銅版画は現在の“報道写真“のような役割でスペインの地獄を記録し、黒い絵のシリーズはそれを目撃し続けた傍観者の傷ついた魂の叫びだったのかもしれないと思わせるには充分な映画でした。
そして2025年3月の時点で観たこのタイミング。
この時代から時間をかけて人権という意識が生まれ育まれてきたと思っていたけど、なにかあれば政治によって真っ先に削除されるのがこの人権なんやわ。
日本だけでなく均衡を失いはっきりと混沌とし始めた世界を感じるほど“遠い昔の歴史“として受け流せない恐怖が湧いてくることにも気づいてしもた。
本当に怖い。