ShinMakita

ゴーン・ベイビー・ゴーンのShinMakitaのネタバレレビュー・内容・結末

ゴーン・ベイビー・ゴーン(2007年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

ボストン。低所得者層の住む区画で、4歳の少女アマンダが誘拐された。その母へリーンはアル中の麻薬常習者で、チンピラのレイと交際している救いのない女だったが、マスコミのカメラの前で、涙ながらに娘を返してと訴えていた。アマンダの伯母から依頼を受けた私立探偵パトリックは、相棒アンジーとともにヘリーンとレイの背景を探る。やがて、ヘリーンが麻薬ディーラー・チーズのカネ13万ドルをくすねたことをつきとめたパトリック。カネの恨みでチーズがアマンダをさらったのだろうか?
刑事のレミーと協力し、チーズの本拠地に乗り込んだパトリックは、カネと引き換えにアマンダを今すぐ返せば罪に問わないと取引を持ちかける。そしてカネと少女とを、郊外の人工湖で交換することに。しかしその場でチーズは撃たれ、アマンダは湖中に落ち死んでしまう・・・


➖➖➖



現代ハードボイルド小説のトップ作家、デニス・レヘインの代表作「愛しき者はすべて去り行く」の映画化作品『ゴーン・ベイビー・ゴーン』。



地元育ちのベン・アフレックだからこそ撮れたリアルな物語。原作の持つ抜群のストーリー展開とテーマ性がきっちり映像になり、文句の無い出来。「児童虐待」の問題点と解決について、パトリックが葛藤する姿が痛ましいですね。チャンドラーらの創造した「ハードボイルド」と「現代ハードボイルド」の相違は、第三者である探偵が、事件そして問題を自らの中に受け止め悩む姿を描いている点。この「ゴーン・・・」はまさにその代表といえるでしょう。


主演のケイシー・アフレックとミシェル・モナハンのカップルは地味だけど魅力的。脇のエド・ハリス、モーガン・フリーマンの存在も大きいです。近年活躍するエイミー・ライアンはヘリーン役。クズのヤク中でありながら、ふとした時に母親の顔をみせる名演技で、オスカー候補になりました。ベン・アフレックも初監督ながら見事にストーリーを語っていて、感動しましたね。
私が原作ファンだからややヒイキメかも知れませんが、現代のハードボイルド映画を語る上で外せない一本です。


ちなみに、この話に続編があるのがご存知でしょうか?角川文庫で10年ほど前に出た『ムーンライト・マイル』です。

〈前置き〉
パトリック・ケンジー。アイルランド系の私立探偵。年齢は30。勇敢な消防士で名士だった父を持ち、生まれ育ったボストンの町で個人事務所を開いている。相棒はアンジー・ジェナーロ。パトリックの幼なじみでタフな美女だが、夫のDVに悩まされている。微妙な関係の二人が、これまで巻き込まれてきたのは、ストリートギャングの抗争事件(「スコッチに涙を託して」)、パトリックの少年時代の闇と深くリンクする連続殺人事件(「闇よ我が手を取りたまえ」)、カルト教団の絡んだ女性失踪事件(「穢れしものに祝福を」)、そして、人生を破滅させられた女性のストーカー事件(「雨に祈りを」)・・・幾多の事件のなかで、様々な悪意と対峙した二人の心と体はズタズタにされてきた。中でも、第四の事件(「愛しき者はすべて去りゆく」)は、二人のパートナーシップに亀裂を生むほどのものだった…



と、そこから始まる「ムーンライト・マイル」は…



〈あらすじ〉
12年前、アマンダ誘拐事件を解決したパトリック。しかしその<解決>を巡って相棒アンジーと対立し、自らの出した結論に、疑問を抱き続けていた。そして現在。妻子を得て、安定を求めて自分を殺して大手探偵社の下請け仕事を続ける日々を送っている。そんなある日、再びビアトリスから連絡を受ける。「アマンダがまたいなくなった」と・・・。アマンダ・マックリーディは現在16歳。彼女に対する贖罪の気持ちで、パトリックは再び捜査を開始する。しかし、捜索開始直後、彼は何者かに襲われ、捜査から手を引くよう脅迫された。暴力とスリルの日々から遠ざかっていたパトリックは、<老い>を自覚しながらも、捜査続行を決意する。そんな彼の前に明らかになっていく女子高生アマンダの正体と、不気味なロシアマフィアの影。果たしてパトリックにハッピーエンドは訪れるのか?

************************************************************




デニス・ルヘインのこのシリーズ、軽妙洒脱なチャンドラー調の会話、映画ファンを楽しませるウンチクの数々が面白さの一つですが、この「ムーンライト・マイル」ではそれらが冴えません。パトリック同様、ルヘインにも疲れが目立つ作品でした。ひとつの<ケリ>をつけた最終作ではあったけど、物足りなさは残ります。


しかしルヘインの卓越したプロット術というのは健在。ハードボイルドミステリのファンは、必ず読まなきゃいけない作家ですよね。「ミスティック・リバー」などのノン・シリーズでもいいので、ぜひお試しあれ。ボストンという都市に深く興味を持てると思います。「ゴーン・ベイビー・ゴーン」から16年、ちょうどこの「ムーンライト・マイル」の映画化には良い時期じゃないですか? ベン・アフレック、宜しく頼むよ!
ShinMakita

ShinMakita