「嫌悪感に敏感なの」
20世紀、女性ファッションに革命を起こしたココ•シャネル。煌びやかで装飾過剰なドレスが溢れる画面に、シャネルが生み出す帽子や服が鋭く映えて美しい。孤児院、田舎のナイトクラブからパリに辿り着くまでの日々。シャネルの美醜への感度は始めから明確に潜んでいて、少しずつそれが広がっていく。シャネルを調べるほどになかなか癖強く人間らしさの色濃い女性だったのだようだけれど、とにかくエネルギーが迸っていて言葉が鋭い。自分の美しいと思うものだけを、スタイルとして打ち出してきた人。
パリでファッションデザイナーとして身を立てたのに、唯一愛したものの結ばれなかった男性に「不幸か?」と聞かれ、シャネルは微笑んで答えない。その男性すら失ったシャネルは、薄暗い部屋の中で服の型をただ静かに裁断する。結局昔も今も何にも依って立つことのできなかったシャネルにとって、自らにとって美しいと思うものをあれほどのエネルギーと精度で生み出し続けることはどんな意味があったんでしょうか。ファッションショーに革新的なスタイルを送り出す彼女の目には、空虚さも哀しみも誇りも自負も全部が混ざってちらつくようで読み取れない。もうそんなに複雑な表情をできる女優さんがすごい。
欲を言えば、パリまでの立身出世や男性関係の話にそれなりの時間が割かれていたけど、彼女が何を美しいと感じたのか、それを生む•形にするという作業がどんなに豊かだったのか、その感性が生む“曲線”がどう社会に切り込んでいったのか、もっと“美”の話として殴られたかったな。