とうじ

アングスト/不安のとうじのレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
4.5
数々の映画で描かれる「殺人」というのがいかに漂白され欺瞞に満ちているかが、本作を見ればわかる。本作の殺人には、感情移入ができる背景や、ヒッチコックやスピルバーグなどのような遊び心、ブニュエルやゴダールなどの記号性は無い。ただただ意味もなく、人を殺すだけである。
それを観客は、客観的に見続けるしかない。よって、少々だれるし、感情が盛り上がるところは全然無い。しかし、本当に恐ろしいのは、多分精神異常により責任能力が欠如している主人公も、客観的に自分が人を殺す行為を傍観するしかないということだ。というのも、彼の殺人の欲求というのは、理性とか判断とかを遥かに凌駕しているのである。
本能として人を殺さずにはいられないし、殺したとしても自分の欲望は全然満たされない。その地獄から抜け出すことができなず、苦しみ続ける主人公を自撮り棒のようなカメラワークでとらえていく。その幽体離脱を彷彿とさせる見せ方も、主人公のただただ傍観するしか無い苦しみを、的確に観客に伝授させている。
見終わった後倦怠感しか残らないが、ある特異な人間を、映像でしかできないやり方で分析しているという点で、見る価値はあると思う。
とうじ

とうじ