櫻イミト

デッドロックの櫻イミトのレビュー・感想・評価

デッドロック(1955年製作の映画)
3.5
英国ゴシック・スリラーの隠れた逸品。監督は「オペラの怪人」(1943リメイク版)のアーサー・ルービン監督。美術は「回転」(1961)のウィルフレッド シングルトン。原題「FOOTSTEP IN THE FOG(霧の中の足音)」。

19世紀末ヴィクトリア期ロンドン。豪邸の主人スティーブン・ローリー(スチュワート・グレンジャー)は妻の葬儀に参列していた。若い女中リリー(ジーン・シモンズ)は邸の地下室で妻の名が書かれた薬瓶を手にし疑念を抱くが。。。

閣下さまのおススメで鑑賞。大きな肖像画、ゴシックな屋敷、黒猫の名演、霧のロンドンと、大好物な要素が何れも上質な映像で描かれた偏愛的スリラーだった。

序盤のシナリオ展開が非常に段取り良くあっという間に映画に引き込まれる。女中リリーが地下室で瓶を発見する場面にはシーンが飛んだような違和感を憶えるが、実は“映画で描かれているタイムラインの前にリリーが起こした行為の結果”が描かれていたことが直後に明かされて腑に落ちる。この鮮やかな省略演出は本編全体にミステリー効果をもたらし、観客は以後リリーの言動に対して「映画に映っていないところで何かしているのではないか?」と不信を抱きながら観続けることになる。

ジーン・シモンズの個性もそこに輪をかけていた。「天使の顔」(1953)のメンヘラ少女や「エルマー・ガントリー」(1960)のカリスマ宗教家など、“視野の狭い一途な純粋”を演じさせたら彼女に比する女優は思いつかない。本作でも本領を発揮し映画に強い個性をもたらしていた。

個人的偏愛なゴシックムードに満ち、客観的に見ても映像・シナリオ共に上出来な隠れた秀作スリラー。

※スチュワート・グレンジャーとジーン・シモンズ夫妻の最後の共演作。1960年に離婚し、同年シモンズは「エルマー・ガントリー」で組んだリチャード・ブルックス監督と再婚。
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