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牛泥棒のmasayaanのレビュー・感想・評価

牛泥棒(1943年製作の映画)
3.5
西部劇の定義は、実はどこにも定まっていない。場所も年代もおおよその目安程度にしか定まっていない。早撃ちのガンマンは必須ではないし、インディアンとの抗争も必須の題材ではない。したがって、西部劇のマイ・ベスト・スリーを考えることは、その人にとっての西部劇の定義を発表することとイコールになるばかりか、その人が映画に求めるものが露呈することにもなるだろう。

そうして考えるとこの古典の中の古典、「多数決による誤った私刑を執行した人間たち」を描いた『牛泥棒』は、共同体における意思決定論(「多数決って本当に正しいの?」)や、統治論(「法治主義ってなあに?」)という観点で、シンプルながらも「深く考えさせられるお話」であるには違いないのだが、自分が求める映画の姿をしていなかったと言うほかないのである。

この映画を見た人の中で、もっとも好きなシーンが「牧場主の死を知らせに男が馬で駆けつける序盤のシーン」だという人間はほとんどいないだろう。しかし、あの馬の疾走だけがここでは映画である。一方、「吊るされた男が残した手紙を読み上げるのだけはやめてくれ」と終始祈っていたが、それも叶わなかった。そればかりか、妻にあてられた手紙とは名ばかりで、実際には映画に込められた主題の解説となっているのが残念でした。
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