垂直落下式サミング

NAKED ネイキッドの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

NAKED ネイキッド(2007年製作の映画)
4.7
昨日、近場のGEOに映画のDVDを借りに行ったところ、何やら新作の品出しと店舗の改装作業で、何時になく店内が慌ただしい様子だった。駅前の空きテナントに無理矢理入り込んだ感じの狭苦しく猥雑な雰囲気があの店の味だったのに、小綺麗な店になってしまうのかと思うと残念に思う。
そんな変わりゆく我らが町の大手レンタル店だが、その店のレンタル落ちDVD5枚で1080円という値段で売られているセールコーナーにて手に入れたのがこの『ネイキッド』だ。その時やたらとすすめられたのでルエカカードなるものを作ってみたが、このカードはGEO以外のどこで使えるのだろう。財布のなかに煩わしいポイントカードが増えすぎて困る。かといって使わないのもすすめてくれた店員さんに悪いし…、別に仲良くなりたい訳じゃないのだけれど、いつも行くところの人に嫌な気はさせたくない。まぁ、何にせよ身近に映画が借りられる場所があるのはいいことだ。そう思う。

さて、本作『ネイキッド(無印)』だが、売春婦に身を落とした女性が客の男に拐われ、気が付くと広野に二人きり。男は彼女にボウガンを放ち「5分だけ待ってやる」とムスカのようなことを言って、さあさあお嬢さんお逃げなさいと、彼女に人間狩りゲームのウサギ役を強要するという全裸系マンハント映画である。
普通の女性ならとっくに死んでいそうな攻撃を受けてもなお最後まで生存するそのタフネスと比較的小ぶりながら主張する白い乳房に目を奪われる。さながら女版『裸のジャングル』だ。
低予算のB級映画だと高を括ってみていたのだが、エンターテイメント作品ではあるものの、なかなかどうして真面目な内容のフェミニズム映画だったと私は思う。
前半部分では、騙されてストリッパーとして稼がなければならなくなった主人公が、出番終わりの楽屋や蛸部屋のようなアパートで咽び泣く姿を淡白ながら容赦のない描写で描き、親切な先輩売春婦との会話でプライドを捨てなければいつまでもここから抜け出せないのだと、現実を突き付けられる様子を観客に見せつける。ストリップ小屋のオーナーは店内では女たちに業務上の条例は守らせるが、それ以外の場所で彼女たちが個々に稼ぐぶんには構わないと売春を黙認。あくまで彼女たちの自由意思を尊重しているかのような彼の口振りがまた憎らしい。
悪辣な環境に身を置く彼女や彼女の周囲の人間模様を丁寧に描くことで、強くならなければ誰も助けてくれないのだと、序盤で彼女にしっかりと感情移入させる作劇が上手く、彼女がこの先どうなってしまうのか常にハラハラさせる。
誘拐犯のオヤジは猟奇的なサイコパスではなく、普通に女を拐って強姦して殺すのは飽きちゃったから、殺す前にもういっちょ楽しんじゃおうと考えるクズだ。性犯罪にしろ殺人にしろ何にしろ、しょうもないヤツがしょうもない理由で反抗を重ね、罪のない人々が不利益を被っているケースが実際には多いはずだ。その方が我々の実生活に近いのである。救いのない話だが、あの非現実的なラストの復讐劇こそ映画という虚構にしか描き得ない弱者の“怒り”があらわれていたと思う。
「広野で裸の女性がハンターから逃げる」それだけの話なのに1時間近く飽きさせない。見事だ。