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君を想って海をゆくのUKOのレビュー・感想・評価

君を想って海をゆく(2009年製作の映画)
4.2
愛とは何か、深く考えさせられます。遠く離れた恋人への想い、修復不可能な夫婦関係、人種を越えた絆。全てが切なさであふれています。
障害はいくらでもあり、乗り越えるには援助も理解も足りません。海が少年の行方を阻み、貧しさが少女を自由にはせず、法律、警察、国境、人種、心ない言葉……障害はいくらでもあります。もちろん密入国は違法には違いなく、同情だけでどうにかできる問題ではありません。近くにいる夫婦でさえ、すれ違うのに、何が彼達を救えるのでしょう?
シモンは、決して善人ではないと思いました。もちろん悪人でもありませんが、彼が同情や、慈善的精神からビラルを助けたのなら、私はこの言い様のない切なさを感じることはなかったと思います。
なぜシモンは難民の少年を「自分の息子だ」と言ったのでしょうか?妻の気をひくため?寂しさから?「海をこえ、彼女と一緒になり、いつかサッカー選手になりたい」という、あまりにもピュアな少年を前にして、人間愛に目覚めたのでしょうか?
いずれでもなく、彼にそう言わせた感情は、人間愛と言うのも躊躇うような、小さな小さな、名も無き愛情だったのだと思います。決して海をこえることはできない、だけど何の繋がりもない少年を放っておけない。どうしようもなく、観る人の胸を締めつける、小さな愛。
お葬式で、シモンは涙を流しませんでした。切ないのですが、なんとなく、それがとても好ましくて、この映画の象徴のようなシーンだと感じました。誰の物でもなくなってしまった指輪も、印象的なキーアイテムになっていました。
暗い海のような、拒絶と孤独に行く手を阻まれて、ただ何と呼んだらいいのかも分からない小さな愛だけが、まだ"WELCOME"と両手を広げてくれている。そんな思いがいつまでも心に残ります。
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