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愛されちゃって、マフィアのEikeのレビュー・感想・評価

愛されちゃって、マフィア(1988年製作の映画)
4.1
1988年の作品ですが結局日本では劇場公開されなかった訳で実に勿体ないですね。
ヒロインを演じるミシェル・ファイファーの初期の代表作の一本であるだけでなく、監督ジョナサン・デミにとっても注目を集めた「スクリューボールコメディ」。
本作の成功を受けて3年後の1991年に全く毛色の異なる「羊達の沈黙」を作り上げた訳で正に上り調子であった時期の作品と言えましょう。

マフィアのヒットマンだった夫を亡くしたアンジェラ(M・ファイファー)はそれを契機に裏社会から足を洗うべくニューヨークの下町で新生活を始めます。
しかし彼女にご執心の組織の大物、”タイガー”トニー(ディーン・ストックウェル:昨年お亡くなりになりました)は下心丸出しで追いかけてくるわ、トニーを捕らえるべくFBI捜査官マイク(マシュー・モディーン)も素性を隠してアンジェラに接近してくるわで、正にてんてこ舞い。
いつしか惹かれあうマイクとアンジェラですがトニーのアタックも激しさを増すばかり。
そしてトニーが何よりも恐れる、妻コニー(マーセデス・ルール)までもがトニーとアンジェラの仲を疑って迫ってきます。
果たしてマイクとアンジェラの恋の行方は?
いわゆるハリウッド型のラブコメとしてはちょっと地味な感じがしますが(配役を含めて)、中味はその他大勢の作品とは一線を画したセンスの良さが際立っております。
マフィアの「極道の妻」として出てくる前半のアンジェラのビッチな装いも笑えますが懸命に堅気の暮らしに励むファイファー嬢の姿が実にチャーミング。
モディーン氏のどこかとぼけた味わいも嬉しいのですが、トニー役の曲者D・ストックウェルが断然光っております。
しかしその彼すら食ってしまうのが妻役のマーセデス・ルール。
おっかなくて可笑しくてでも可愛いのです。

他にもアレック・ボールドウィンやオリバー・プラットそしてジョアン・キューザックと言ったキャラの立った面子が脇を固めております。
音楽担当はなんとデビッド・バーン!これがダメ押しといった感じなのです。もちろんこれはデミ監督が1984年に音楽映画の金字塔とも言えるStop Making Senseを送り出した縁があるからでしょう。

しかしこの作品は何もセンス良さを売り物にしているわけではない。
演出も演技も地に足がついた実に映画らしい作品になっている。
その中で弾けている出演者達の掛け合いこそが観客に対して何よりのご褒美なのです。

マシュー・モディーン氏は本作の前に「フル・メタルジャケット」に出演していた訳ですが、キューブリック作品が持つ磁力から抜け出せずにいたらしく、精神的に沈んだ状態だったそうで本作は一種のリハビリになったのかもしれませんね。
ところが、制作側の第一候補は何とトム・クルーズであったそうで彼に気に入ってもらうべく脚本も何度も手直しまでしていたそうです。
しかしクルーズ氏は「カクテル」への出演を選んだのだそうです。
それで言えばヒロイン役もファイファー嬢以外考えられない訳ですがこれも第一候補はジェシカ・ラング嬢だったそうです。
こういう背景を知るのも楽しいものです。

良く出来たシチュエーションコメディと言うのは時を経ても変わることなく楽しめる訳で、本作も今見ても全く問題なく楽しめると思います。
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