一人旅

マーティン/呪われた吸血少年の一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
ジョージ・A・ロメロ監督作。

モダン・ゾンビの始祖ジョージ・A・ロメロが代表作『ゾンビ』(1978)の直前に撮った異色の吸血鬼スリラーです。日本では長らく劇場未公開でしたが、2021年10月に劇場での公開が実現しました。

現代のアメリカを舞台に、自分のことを吸血鬼だと信じている陰気な青年マーティンによる一連の行状を、彼を吸血鬼だと認める自称“いとこ”の老人クーダとの骨肉の確執や幸薄な人妻サンティーニ夫人との歳の差情愛を軸に映し出した“吸血鬼サイコスリラー”となっています。

青年は本当に吸血鬼なのか、それとも吸血鬼の妄想に取り憑かれているだけなのか―最終的に観客の判断に委ねるミステリアスな作劇が異彩を放つ異色の現代吸血鬼モノで、標的として選んだ人間(主に女性)を睡眠薬で眠らせた上で、手首を剃刀で切って流れ出た血液を吸うという周到な吸血シークエンスが、首元に一発で咬みつき仕留める伝統的な吸血鬼映画の手法とは一線を画した新規性の高い演出となっていますし、現代社会に生きる吸血鬼の孤独や疎外感、葛藤や苦悩に焦点を照らした青春劇的な作風は後年の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)の先駆けとも言えます。

ピッツバーグで芝居を見たロメロ監督に才能を認められ主演に抜擢された新人俳優ジョン・アンプラスが吸血の欲望に駆られて止まない青年を繊細かつ衝動的に演じ切っていますし、メイクアップ界の巨匠トム・サヴィーニによる特殊効果&特殊メイクもリアルに作り込まれています。
一人旅

一人旅