けーはち

ブッチャー・ボーイのけーはちのレビュー・感想・評価

ブッチャー・ボーイ(1997年製作の映画)
3.5
凶悪な少年殺人鬼の狂気を描き、その背景にある宗教や世相を笑うR15+指定ブラックコメディ。日本では「酒鬼薔薇聖斗」事件があり劇場公開中止された曰く付きの怪作。アイルランドの片田舎で貧困・崩壊家庭に生まれ「豚」と蔑まれ最後には友に見捨てられ発狂……悲惨で数奇な運命を辿る主人公だが、問題児の矯正施設で神父に変態プレイを迫られてもナイフで切りつけ逆に弱みを握るなど、パワフルでしたたかな怪童ぶりは痛快である。ただ彼を取り巻く環境によって愛や友情が喪失した心に、キューバ危機の60年代の世相、英国による経済的支配、当時流行の漫画やTVドラマ等の創作物、そしてカトリックが影響し、夢現の境が曖昧になる悲喜劇。幻覚の聖母マリアの役はアイルランドを代表する女性歌手で古い倫理観に抵抗し丸坊主を売りにしたシネイド・オコナーなのも笑い所。冷戦期の核の危機を黙示録的終末感に落とし込む(例えば「ターミネーター」のような)正しく20世紀末の一本。