KnightsofOdessa

セリ・ノワールのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

セリ・ノワール(1979年製作の映画)
4.9
[流れ着いた先で見た刹那の幸福] 99点

どう頑張ってもマリー・トランティニャン可愛い以外の感想が湧いてこないが、もうそれで良い気がしてきた。この時まだ17歳なのだが、終始無言でドヴェールを見つめる死んだ目に殺られた。完全に殺られた。

彼女を救わんとするドヴェールの方が主人公であり、彼の狂気的な動作=アクションの連続によって物語そして映画そのものが文字通り"転がっていく"様を我々は観察するのだ。胡散臭い"押し売り"セールスマンがどうしてそこまで落ちぶれたかという背景は一切語られないが、アル中の仕事しない嫁と本人の中に潜む優しい面と暴力的な面の二面性によって、彼がその道へ進んだのはほぼ必然なんだろうということが語るまでもなく存在する。根本的に金も女も求めていない感じまで漂っていて、企画自体が吹っ飛びかねないような状態なのにそれすら味に変えてしまう、"こいつなら多分金にも女にも興味なさそうだけど、流れるままにそういうことしそうだよね"という説得力と魅力によって、この映画は成立しているのだ。それがドヴェールかと思うと、心底この俳優が今まで生きてくれていればと思ってしまう。

金も取られて、妻を残して、闇夜の通りで抱き合ってグルグル回っている二人に未来はあるのだろうか。答えはすぐ出てきそうだが、あの瞬間にしか味わえない一瞬の幸福を、一瞬だけ味わってみるのも良いのかもしれない。
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