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ポッピンQのナガのネタバレレビュー・内容・結末

ポッピンQ(2016年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

ブログに投稿した内容と同じものになります。

 12月23日に公開された東映アニメーションが贈る新作「ポッピンQ」を鑑賞してきました。この作品は東映アニメーションの60周年を記念して作られたオリジナルアニメーション作品で、キャラクターデザインに黒星紅白さんが参加したことでも話題になった。

 全国200スクリーン以上で封切られ、東映アニメーションの勝負作品と期待されましたが、残念ながら、公開日から劇場はガラガラ続出で、初週末動員ランキングでTOP10入りすら危ぶまれる出だしとなってしまった。

  私も初日のレイトショーで鑑賞してきましたが、全国有数の動員力を誇る劇場であったにも関わらず、数えるほどの方しか見に来ていなかった。

 そもそもこの作品はプロモーションに問題があったように思う。宣伝をし始める時期も他の作品に比べて遅かったように思うし、1月公開予定であったにもかかわらず、前倒して冬休み映画に合わせてきたのが最大のミステイクだ。スターウォーズやバイオハザードなどの洋画大作や妖怪ウォッチ、「海賊と呼ばれた男」そして依然健在の「君の名は」 など強豪ひしめく年末のこの時期に公開したことで完全に埋もれてしまった。

 では、個人的な考察の前に、この作品について簡単に説明しておきたい。まずは今作品を彩る黒星紅白さん原案のキャラクターたちである。

 この作品のメインキャラクターはこの5人であり、全員が中学3年生である。そしておそらくこの作品はダブル主人公映画になっていて、中央の伊純と一番左に位置する沙紀がそれに当たるだろう。

 まず、一人目の主人公の伊純は高知県に住んでいる中学三年生の少女で、父親の仕事の都合で卒業後の東京引っ越しが迫っている。最後の陸上大会で同じ学校の陸上部に所属するライバルに100メートル走のタイムで敗れ、その際にそのライバルの勝利をたたえてあげられなかったことが胸につっかえている。

 次に、もう一人の主人公に当たる沙紀である。幼少のころからダンスが大好きだったが、とある事件がきっかけでダンスに背を向け、人とのコミュニケーションを取ることが苦手になってしまった。今作の展開のカギを握っているキャラクター。

 ここから、他のメインキャラクターについても簡単に紹介していく。

 左から2番目に位置するのが小夏である。彼女はピアノが得意で音楽を愛する少女。しかしコンクールで勝つことがプレッシャーになり、音楽の楽しさを見失ってしまった。

 右から2番目に位置するのがあさひである。彼女は、父親の影響で柔道を、母親の影響で合気道を嗜む少女である。しかし、その優柔不断で、流されやすい性格が祟って、自分の女の子らしくありたいという願いを伝えられずにいる。

 そして最も右側に位置するのが、蒼である。彼女は勉強が未来への投資であると信じて、ひたすら打ち込んでいる少女。そのためか上手く周囲に溶け込めず、孤独を選んでしまう傾向にある。しかし心の内には、友人と上手くやりたいという思いが垣間見えている。

 ここからは主人公たちの下に並んでいる、同位体と呼ばれる存在について解説しておきたい。

 同位体というのは、主人公たちが迷い込む「時の谷」に生息しているポッピン族の中でも、主人公たちと文字通り一心同体となった存在である。劇中の描写から察するに、彼らはパートナーの過去や考えなどをすべて見通す力を持っている。この同位体たちの性格や気質はパートナーと非常に似たものとなっている。

 ポッピン族たちはダンスを踊ることで、時の谷の守護者として機能し、世界の時間を動かしている。しかし、そんなポッピン族たちの世界に突如としてキグルミと呼ばれる存在が現れ、その圧倒的な力で次々にポッピン族を捕獲し、時の谷を乗っ取ってしまう。主人公たち5人は卒業式の直前、突如としてそんな時の谷を救うために同位体によって、導かれる。

 ここからは私の個人的な作品に対する感想と考察になります。

 結論から言おう、この作品、はっきり言って何がしたいのか全く分からない。

①かみ合わないテーマ性と展開・演出

 この作品のテーマ性がどこにあるかというと、それは卒業式を控えたいわば人生の一つの節目にさしかかった少女たちが自分たちの過去と未来にどう向き合っていくのかということである。このテーマ性は作品のプロットから考えても明確である。

 しかしこの作品の演出や終盤の展開が全くこのテーマ性にかみ合わないのである。

 まず、この作品の売りの一つがダンスである。主人公たちがダンスを踊ってそのパワーで世界を救おうというのがこの作品の主軸の一つになっている。


 確かに目玉の一つにしていると言う事もあって、ダンスシーンのCGにはかなり力が入っている様子がうかがえる。しかし、問題はそのバックミュージックである。主人公が踊っているシーンでは必ず、今回の映画のために大手音楽レーベルが即席で結成したダンスユニットのナンバーが流れる。これが非常に大きな欠点である。

 主人公たちがありのままの、等身大の自分で自分自身の人生に向き合っていく、ダンスはそのイニシエ―ションに当たるものと捉えられる。にもかかわらず、その劇伴音楽はよくわからないダンスユニットのナンバー。これはテーマ性と演出の不一致が顕著な部分だと考える。ここは間違いなく主人公たちの声優陣が歌ったナンバーが採用されるべきだった。そのダンスユニットのナンバーが悪いというわけでなく、単純に演出上ミスマッチと言う事である。

 また、終盤、今作最大の敵となる未来沙紀と主人公たちが対峙する場面で、伊純がとある空間魔法によりどんどん老いていくというシーンがある。今作における主人公たちは皆、過去や今に対する後悔や苦しみにとらわれている。そしてそれが自分の未来への不安へとつながっているのである。にもかかわらず、老いなどという今作のテーマ性に何の関係もないシーンに尺が割かれている。

 ただでさえ、世界観の広大さのわりに尺が短いという、厳しい状況なのにもかかわらず、なぜこんな無駄なシーンを入れる余裕があるのだろうか?

 この作品のテーマ性自体ははっきりしているのに、脚本や演出が全くそれを表現しきれていない。それ故にテーマ性までも揺らがせている。非常に稚拙だったと思う。

②最大の見せ場が台無しに

今作最大の見せ場のは何といっても伊純がキグルミたちに占領されたポッピン族の城門に続く桟橋を駆け抜けるシーンであると思う。

 このシーンは伊純が自分の陸上への未練と後悔を断ち切り、未来へと踏み出す非常に重要なシーンである。そして、その姿にメインキャラクターたち全員が自分を重ね、未来を見据える。物語のテーマ性においても、展開においても最も重要なシーンといっても過言ではない。

 しかし、そのシーンにあまりにも穴が多すぎるのである。そもそも伊純が100メートル走で出している11.8秒台というタイムは日本で女子中学生がこれまでに出してきたタイムのTOP10に入るほどの怪物的なものなのである。そんな全国的にも手も歴代トップクラスの生徒が、伊純に勝ったライバルも含めて、決して陸上が盛んではないような中学校に2人。とんでも設定である。

 そして、主人公は自分がグラウンドでいくら走っても出せなかった自分のベストタイムを足場の悪い桟橋で出すのであるが、そこで出せるなら、グラウンドでなぜでないというツッコミを禁じ得ないのである。

 また陸上的な演出にするためなのかご丁寧にクラウチングスタートで、しかもスターティングブロックとカウントダウンまで用意されているいう謎のご都合演出である。

 素晴らしいシーンになるはずがあまりにも穴だらけで、正直笑いが止まらなかった。いくらファンタジーの世界とは言ってもある程度、現実との整合性が取れていないとそれは観客にとって受け入れられないものとなってしまうことがよくわかる例である。

③エンディング後に流れる謎の映像

 これはかなり重大なネタバレになりかねません、お気を付けくださいませ。

 本作品はエンドロール後に、続編を示唆する、つまり「ポッピンQ」高校生編の製作を示唆する予告映像のようなものが挿入されている。確かに今作で登場した、敵キャラクターのレノはほとんど何の掘り下げもないままに終わってしまった。

 東京の同じ高校で偶然再会を果たす5人。そして生徒会長となって再び対峙するレノ。紛れもない続編予告である。

 レノに関する謎が何も明らかにならなかったのは、続編を製作する予定だったからなのか!!これは驚きだ!!

 そして劇場が明るくなり、最前列の座席に座っていた私はふと後ろを振り向いた。初日にもかかわらずガラガラの座席。

 こんなの大赤字じゃん。続編なんて作る予算がどこから降って来るんだろう?そう思うともう笑いが止まらなくなった。

 おそらくこの続編が作られることは永遠にないのだろう。レノというキャラクターはいったい何だったのか?彼の目的は?すべては闇に葬り去られるのだろう。

 興行的にも芳しくない上に、著しく評価が低い「ポッピンQ」。しかしそれは仕方がない。

 この作品の一番の問題点は、この作品から東映アニメーションの狙いが何一つ見えてこないことである。

 東映アニメーションはいったい何がしたかったのか??

 その疑問だけが鑑賞後から私の心にモヤモヤと残り続けている。



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