パイルD3

不思議惑星キン・ザ・ザのパイルD3のレビュー・感想・評価

不思議惑星キン・ザ・ザ(1986年製作の映画)
5.0
惑星で思い出す映画は数々ありますが、驚くほど魅力的だったのがロシアのSF映画「不思議惑星キン・ザ・ザ」
ロシア風スタイリッシュともいうべき、ハリウッドはもちろんヨーロッパ映画とも異なる特有のテンポと間合いがあります
スタイリッシュと言えば聞こえはいいのですが、どちらかと言うとズブいくらいの行間を挟み込むテイストで、時間の感覚を失ってしまうくらい、気持ちのいいユルユル加減なんですね

…ところが
これが狙ったわけでもない詩的な叙情や好意的な余韻といった、予期せぬ効果をもたらした、かけがえのない“変な”SF映画の傑作です


【不思議惑星キン・ザ・ザ】
この星では“キュー”というのが、唯一使用可能な罵詈雑言を表す言葉で、“クー”というのが、残り全部を表現する言葉である
残り全部って何だそれ?と、言いたくなるような大雑把な設定からして、既に人を食ったような仕掛けなのだが、このシンプルさゆえのやさしい興奮と小さな感動が全編を覆っている

…見渡す限り砂漠の惑星キン・ザ・ザ  

荒廃した挙句の砂漠なのやら、摂理に任せた自然の砂漠なのやら不明だが、見るからに不衛生なたたずまいで、原始指数の高そうな野蛮で小賢しい住民たちが居住している
しかし、どうやら科学の一部分だけは高度で、見かけはともかく、飛行する機体を常用の交通手段として使いこなし、星間移動という先進技術を擁するほど進んでいる…マジか

《キン・ザ・ザの4人》  

その突出した技術のために、突然のアクシデントから地球からワープ?してしまい、未知なる時空間の中で翻弄されるのが…
ビジネスマンらしい取引のルールを応用し、脱出の糸口を探る建築屋の主人公ウラジミール(スタニフラス・リュブシン)と、バイオリン弾きと名乗りつつ鬱陶しいくらい自己主張するグルジア人の学生(レヴァン・ガブリアゼ)という二人の地球人で、迷走する彼らの脱出劇なのだが…
これに横着ながらも目端の利く惑星の住民ウェフ(エヴヂーニー・レオノフ)と、その相棒で多少は常識のありそうな長身のピー(ユーリ・ヤコヴレフ)が割り込んできて、4人の漂流のドラマとなる
当然彼らの道行きはスムーズには行かず、厄介な異種異相の惑星人らが絡んできて秩序なき妨害と危害を加えて、運気をも左右してしまう

悪漢どもも含めて、キャラクターの描き分けが丁寧で、間違いなくゆるいドラマなのだが、最後までユルユルグイグイ引っ張られてしまう

思わぬ流れからストーリーは一気に転機を迎えるのだが、タイムスリップの原理を利用して二人の地球人が見せる心意気が胸を打つ…

《墓》
ストーリーとは何の関係も無いシーンだが、“最後の息”と名付けられたヨレヨレの紙風船が宙を舞うシーンが出てくる。どうやら、この星ではこれが墓なのだという。
命のはかなさをコンパクトに見せるいかにもSF映画らしい秀逸なイメージには感動させられる

文明と科学によるギャップをベースに、異星人同士のコミュニケーションの間の悪さと、中断と停滞を繰り返しながらも無骨な交流の過程をコミカルに見せる

キン・ザ・ザ…奇妙な惑星もあったものだが、心のすき間にゆるい浮遊感を与えてくれる、愛すべき童話のような印象深い作品としていつまでも記憶に残る
パイルD3

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