らんらん

タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密のらんらんのレビュー・感想・評価

4.0
スティーブン・スピルバーグ、2011年。

スピルバーグ作品では珍しい(唯一?)全編3Dアニメ作品。

ベルギーの人気コミック(バンド・デシネ)『タンタンの冒険』をモーション・キャプチャーで制作した。


Wikiによれば、スピルバーグ側は1984年に映画化権を取得。
諸々を経て27年後、完成・公開に漕ぎつけた。

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》 』(1981)の後、同作が「タンタンの冒険」に似ていると言われ、初めてタンタンを知り、ファンになったと言うスピルバーグ。
原作者エルジェもレイダースでスピルバーグのファンとなった。既存の実写/アニメ作品に満足していなかったエルジェは、実写化を任せられるのは(当初は実写の予定だった)スピルバーグしかいないと言ったそう。
エルジェは1983年に亡くなったが、夫人が契約を受け継いだ。

面白いと思うのは、スピルバーグ本人を始め、幾人かのスピルバーグ組(音楽のジョン・ウィリアムズや撮影ヤヌス・カミンスキー、編集のマイケル・カーン等)を除き、俳優も含めヨーロッパ、主にイギリス人スタッフによって本作が作り上げられたという所だ。

例えば製作に名を連ねるのは、ピーター・ジャクソン(監督作品『乙女の祈り』、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作、『ホビット』3部作等)。

スピルバーグが主人公の相棒スノーウィ(白い犬)をCGで描けないかと相談したところ、幼少期からタンタンのファンだったジャクソンは、タンタンの世界を描くには実写ではなくモーション・キャプチャーが適していると提案したそうで、2007年には共同製作を発表した。

脚本にはエドガー・ライトも参加していて、俳優陣も、ジャクソンやライト組のイギリス人俳優が多数参加している。

タンタン役は、ジェイミー・ベル(リマスター上映中の『リトル・ダンサー』、『異人たち』等)。
3Dタンタンの顔は原作とはかなり異なる印象だが、どうやらベルに寄せているようにも見える。原作のタンタンのカメオ出演(?)もあり。

他に、『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムや、コングやゴジラのモーションアクターでもあるアンディ・サーキスを始め、サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ダニエル・クレイグ等。

原作がヨーロッパの人気作品なので、知名度の低いアメリカよりもヨーロッパを主戦場の念頭に置くのは道理ではあるが、先述のピーター・ジャクソンを始めヨーロッパ出身スタッフ達が、自分達の原点である幼少期の思い出を刺激され、ミスター・ハリウッドの元でタンタンとその冒険に魂を入れ込んだようにも思える。
ワールドプレミアもベルギーのブリュッセル、同日にパリで行われた。


内容は、1940年代を舞台にした冒険アクション。

原作の3つのエピソードを脚色したストーリーには特に一貫した深みがある訳ではなく、如何にも子供向けではあるが、ブリュッセル市街から古城、海や空、モロッコの砂漠や謎の海辺の町までを使い、冒険は縦横無尽に繰り広げられる。
その流れは自然で、次第に引き込まれて行く。

実写っぽいのに実写ではない、動きは自然でも例えば人物造形には3Dアニメ独特の居心地の悪さは確かにある。

それでも、アニメならではの長回しや躍動感のあるカメラワークは見どころだ。海上のシーンでは、船の揺れで危うく酔いそうになった(元々酔いやすい体質なんですけど)。
斜めの構図も多く、動的でダイナミックな空間表現とリズムはとても楽しい。ジョン・ウィリアムズの楽しく豪快な音楽もいい。製作陣の興奮が伝わってくる。

何でもアリの冒険に勇気と賢さ、体力と好奇心を持って飛び込んで行く少年ルポライター、タンタンは、おそらくヨーロッパの元少年少女の永遠の友人でありガイドなんだろう。

そもそも、愛犬と二人暮らしの「少年ルポライター」「少年ジャーナリスト」って何?という感じだけれど、ドラえもんって何?何で猫?とはもう思わないのと同じくらいに、きっとタンタンはタンタンなのだ。
それに誰しも一度くらいは、「愛犬と二人暮らしの少年/少女ジャーナリスト」なんて立場に憧れるような瞬間が、かつてはあったのではないだろうか。

タンタンに象徴される自由と独立、好奇心への憧れは、数少ない正しさの内の一つとして、子供時代の私達を勇気づけてくれていたように思うのだ。カタルシスは勧善懲悪や獲得物、成果ではなく、あくまでもタンタンとスノーウィ、そして冒険そのものにある。

ピーター・ジャクソンは続編を考えているようだし、次があるならスクリーンへ行きたい。奇想天外な空想の冒険を大スクリーンで観たいと思う。
その前に『ロード・オブ・ザ・リング』を観なくっちゃ。これは独り言。

ゴールデングローブ賞アニメ映画賞、受賞。
アカデミー賞作曲賞、ノミネート(ジョン・ウィリアムズ)。
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