てぃだ

フレンチ・ランのてぃだのネタバレレビュー・内容・結末

フレンチ・ラン(2015年製作の映画)
1.7

このレビューはネタバレを含みます

フランスの夜の街。教会の前に様々な人々がいる。何気ない風景。ところがいきなりあちらこちらで嬌声やどよめきが上がる。何が起こったのだろうか。いぶかしがる人々、騒ぎの元凶を突き止めようとキョロキョロする人々。と、そこに一人の女性が闊歩している。周りからの注目を集めているのはこの女。ところが女、なんと裸である。別に身ぐるみを剝がされた被害者というわけでもない様子で、むしろパリコレのトップモデルのような優雅な歩き方。なんだこの女、変態か。夜な夜なストリップショーというわけか。と思っていたらカメラは騒ぎに乗じてコソコソ妙な動きをする男を追う。男、その辺りにいる人間の懐やポケットに手を突っ込み財布やらパスポートやら金目のものを拝借。どうやらこのストリップ女、この男の仲間で男の方はスリのようだ。






というオープニングで幕を開ける本作。このスリの男がその後たまたま狙いを定めて拝借した「獲物」が何とホンモノ爆弾。そうとも知らずすった男の前で爆弾が爆発。4人の死者まで出る始末。監視カメラから爆弾テロ犯の容疑をかけられる羽目になる男。その男を追うのがアメリカからやってきた凄腕男イドリス・エルバ。エルバは単身男を追う、訳も分からないが恐怖心から逃げる男。もちろん予想通りエルバにあっさり捕まってしまうのだけど、男が無実だと確信したエルバは男の凄腕のスリの才能に目を付け、彼を相棒に爆弾を作った真犯人を追う。





と、簡単に説明するとそういうプロットになる『フレンチ・ラン』なのだけど、困ったのがこのスリ男が全く「凄腕のスリ」に見えないということである。そもそも先述の初登場時のお仕事場面からして全く凄腕スリに見えない。「モデル顔負けの女性を裸にする」ことで人々の注目を集めさせ、その隙に人々の懐やカバンに手を突っ込んで盗みをする・・ってこれが「凄腕のスリ」の考えることだろうか。そんなことして公然わいせつ罪か何かで警察がやってきたらどーすんだお前。いや、まぁ百歩譲って警察がすぐには来なかったとして、女を撮ろうとして現にたくさんの人々がカメラや携帯を構えてシャッターを切っている。Youtubeにまで動画を挙げてるバカもいる。そんな中で堂々とスリ。バカじゃないか。こんなに人々が女に注目している中で一人だけ女には目もくれずコソコソと動き回っている男。いや・・そっちの方が逆に目立つと思うんだが。いや、お前ほんとにバカじゃないか。何がしたいんだお前。唖然。






というどう考えても捕まりたいだけのバカにしか見えない「まぬけ」のなんちゃってスリ坊やが主人公だから、この映画、終始どうしたって「まぬけ」な画が並ぶことになる。90分という短い上映時間にも関わらず、緊張感もほとんどない。唯一面白い場面は、エルバとこのスリ男がおいかけっこする場面。パリのかなり傾斜が急な家の屋根を駆け抜ける二人。なのだけど、このアクション場面でさえ既に「まぬけ」そのもの。ものすごく重たそうな身体を必死に駆使して二人が追いかけっこする。ドタドタバタバタという足音が聞こえてきそうだ。ここにジェイソン・ボーンや007のような爽快感やスピード感が一切皆無なのが何だか笑える。いや、まぁあそこまではいかなくても少なくとも映画として超人同士がぶつかり合う様を見せてもらいたいものなのだけど、この二人のおいかけっこ、何だかとってもゆるゆるで、とっても愛嬌がある。ジャッキーチェンのように狙っているわけでもないのに、本人たちも至ってマジメなのに笑えるのだからしょうがない。そして終いにはエルバはバイクに乗って逃走しようとしたスリ男にラリアーット!!「いててて!うわ、今のだけはちょっと痛そう!ちょっとだけ男かわいそう。」





それからこの映画、バディムービーのはずなのに全然二人の相性がよろしくないのも困りもの。二人の息の合った掛け合いだとか、仲の悪かった二人が次第に信頼を築き上げ、強大な悪を懲らしめる。みたいなそんな成長の様子もカタルシスも一切ない。会話も面白くない。フランスの革命記念日が舞台ということで、妙に政治絡みのマジメなメッセージだとか暴動の場面ばかりが力を入れられているのだけど、いや・・そんなところよりも、もっともっと力入れる部分、あっただろどう考えても。イドリス・エルバ扮する凄腕捜査官がせめてもう少し魅力的なヤツならまだしも。相変わらず「クレヨンしんちゃん」のまさおくんを思わせる、「大きな身体に小さな頭をもった可愛い風貌。顔はちょっとだけアメフトのボールのような形、なのに強面」という妙なギャップを携えた黒人俳優エルバの魅力さえも引き出せないなんて、勿体ない。
てぃだ

てぃだ