SPNminaco

デッド・カーム/戦慄の航海のSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
息子を失ったショックを癒そうと航海へ出た夫婦のヨットに、遭難した船から男が乗り込んでくる。ホーム・インヴェイジョン・ホラーを船に置き換えた形で、ほぼ3人だけの密室劇。しかも、夫と妻は別々の船に引き裂かれてサヴァイバルだ。
冒頭から既に不穏すぎるし、息子の事故シーンが怖すぎる。夫サム・ニールと3週間2人きりで航海してたのも怖い(トラウマ治癒には不適切では…)。けど面白いのは、始まりが列車で車へと移り、恐怖の舞台となる海は快晴で穏やかなデッド・カームという外し方。方や明るい太陽の下、サイコ野郎と閉じ込められた二コール・キッドマンと犬。方や、沈みかけの幽霊船に閉じ込められた航海士サム・ニール。間に救命ボートを挟んでの力構図は、2対1であり、1対1の攻防。
危うい航海を結婚になぞらえた物語は昔からよくあり、これもホラーの体をした夫婦映画である。悪夢にうなされる妻を冷静になだめる夫の、静かな凪に見えた関係は実は嵐だったかもしれない。もともと夫は海、妻は陸に別居状態で、スキンシップもぎこちない。ヨットから妻が伸ばした手を掴めずに漂流することになる夫、妻が無線で呼びかけても答えられない夫(サム・ニールには台詞が極端に少ない)。働きかけて待たされるのはいつも妻だ。それでも妻は1人で闘い、夫を見つけ、夫はようやく妻の手を掴む。夫を迎えに行く途中で起きた悲劇は、再び夫を迎えに行くことでやり直され、夫妻はお互いの明かりを頼りに絆を確かめ合うのだ。
それを触媒するのが招かれざる客、ジ・アザー・ワンの3人目。若いビリー・ゼーンがギラギラと演じる正体不明のサイコ男は、ベトナム戦争PTSDらしき背景を匂わせていた。キッドマンVSゼーンの激しい肉弾戦アクションがすごいが、流れるスコアや大海原の景色は格調高く洗練され、映画は薄っすら文学的な心理ドラマの趣すらある。なので当時の流行りだったかもしれないけど、最後の展開は要らなかった。
SPNminaco

SPNminaco