とうじ

13回の新月のある年にのとうじのレビュー・感想・評価

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)
5.0
「ペトラフォンカントの涙」は観た後凄すぎてもう2回連続でぶっ続けて観たくらい大好きな映画なのだが、(あの映画のラストショットはポップミュージックと映像の融合によって醸し出すことができる情感の最上級を達成している)ファスビンダーの他の作品は全然観たことがないので観た。
第二次世界大戦後急激な経済成長によって都市化するドイツの街並みをゆっくりと映しながら、チリの軍事政権に関するニュース音声を流すという激ヤバの場面がある。
本作の、ドイツの社会に対する軽蔑と宿命主義的な観点から描きだされるのは、一人の本当に心優しい、愛だけを求めて歪んでしまった主人公の肖像である。ファスビンダーは悲劇を描く際に、徹底的にその主人公に慈愛を込めて描くので、ずっと不思議な暖かさがある。
トランスジェンダーを主人公とする際に、マイノリティの差別を描かないのは興味深い。これは「不安と魂」で移民労働者の差別よりも、彼の恋人となった白人のおばあちゃんが感じる孤独と断絶に焦点を当てた時と同じ感覚である。
それはやはり、ファスビンダーは不特定多数からの根拠のない迫害よりも、大切な人との意思疎通のできなさ、そしてそれによって傷つけられることに対して興味があったのだと思う。
主人公は自分に自信が無く、子供の頃から周りの人に気に入られるために嘘ばかりついていた。そんな主人公が誰かを愛する際に、自分からは何も与えられないので、自分から何かを奪うことでそれを表現する。ここまで呪われたキャラクターも珍しい。
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