櫻イミト

ヒッチコックのゆすりの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ヒッチコックのゆすり(1929年製作の映画)
3.0
ヒッチコック監督およびヨーロッパで初のトーキー作品(但し導入部はサイレントで中間字幕)。サイレント版も同時に制作された。

若い刑事のガールフレンドが正当防衛の罪を犯してしまうのだが。。。

トーキー版を観てラストが腑に落ちなかったので、2回目はサイレント版を比較視聴してみた。結局ラストは同じだったのだが、両者の演出とカット割りの違いが非常に興味深く、ヒッチコック監督の映画術を垣間見る思いがした。

まず映画自体は、階段でのエレベーター・カメラ・ワークやカーテン越しの表現など技術的な見どころは多々あった。しかし、多くの人が指摘するようにラストの曖昧さが気になってしまう所。個人的にはバッドエンドと解釈しないとまるで面白くないと思う。ヒッチコック監督自身もバッドエンドの予定でいたのを映画会社との相談で変更したとの事。

そしてトーキーとサイレントの比較だが、圧倒的にサイレントの方が良い仕上がりだった。一番の理由は映画の肝となる決定的なカットがトーキー版では演出上、省略されてしまっていること。また録音マイクの影響か、トーキー版は会話部分の画角が狭くカット割りも少なくなるなど、画作りに支障をきたしているようだった。役者の芝居にも影響があり、サイレント版の方がヒロインの表情がより繊細に演じられていた。もともとはサイレント映画として制作が進められていたと言うことなので当然の結果なのかもしれない。

このところずっとサイレント映画を観て来て特別の魅力を感じていたところだったので、今回比較して鑑賞できたのは貴重な体験だった。サイレント映画の画の魅力は、作り手にとっても鑑賞者にとっても特別なものである。
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