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ヒッチコックのゆすりのhasseのレビュー・感想・評価

ヒッチコックのゆすり(1929年製作の映画)
3.9
1927年『ジャズ・シンガー』の2年後公開の本作はイギリス初のトーキー作品。サイレント版が先に作られたが、トーキー版も面白そうじゃね?と2バージョン製作されたらしい。中盤から急にセリフありになるのはそういう事情もあるからなのか。

ヒッチコック30歳頃の作品だが、凝ったヒッチコック的映像の片鱗は散見される。冒頭、男が踏み込んできた刑事二人を鏡で視認するエッジのきいたショット。
アリスが殺人後、街中でだらんと垂れた腕を見て、脳裏に殺した男の腕がフラッシュバックするショット。
精神的に追い込まれたアリスが街中でぐったりしている浮浪者を見て叫び声をあげるショットが、同じ構図で、女が殺された男を発見して叫ぶショットに素早く接続される。叫んだ女の老けた顔がアップになるが、アリスと類似する髪型や服装の効果で、まるでアリスが精神的に参ってしまい老けたかのように錯覚させられる、素晴らしいテクニック。

逆にヒッチコックぽくないのが、混雑するレストランの席の奪い合いシーンでは二組の男女が席を立ったり座ったりする様子をチャップリン的なスラップスティック・コメディの作劇で描いている。サイレント時代のヒッチコック作品は観たことがないが、こういうこともやるんだ、という新発見。
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