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イワン雷帝のいろどりのレビュー・感想・評価

イワン雷帝(1944年製作の映画)
4.3
幼くして貴族に両親を殺されたことで貴族を恨み、封建貴族を抑え、残虐の限りを尽くした暴君イワン4世。

ロシア史上初めて皇帝(ツァーリ)と名乗ったという肩書きに混乱。

ロシア初代皇帝はピョートル大帝のはず。
数ヵ月前、プーチンがロシア初代皇帝ピョートル大帝が18世紀にスウェーデンとの戦争を制し領土を拡大した歴史を引き合いに、領土を取り戻す、と言ったことは記憶に新しい。

ロシア初代皇帝がピョートル大帝なら、イワン4世はいつの時代の皇帝かと調べてみたら、16世紀のモスクワ大公国というロシア帝国の前身国家だった。

「戦艦ポチョムキン」しか見たことなかったけど、今作のエイゼンシュテインは人物の映し方が面白い。

次元大介の髭にしか見えないイワン4世の髭の横顔アップを白黒を生かした陰影で大きく見せたり、イワン4世だけ2メートル超えの大男のようになっていたりするのだけどこれが絵はがきに切り取りたいくらい絵になる。

色んな俳優が白目を向いたような顔でドアップになるのも異様な空気を醸し出している。歌舞伎や能を演出に取り入れているとのことなので、にらみや見得を意識しているのかな。ド派手なつけまつげも面白い。

ロシアの歴史を知らなくても十分、楽しめる迫力ある作品。1部と2部は分けて見たので長尺のストレスもなかった。

ロシアはこの時代から近隣諸国をとりこむことばかり考え、他国からの侵攻に怯えていた。

「ロシアへの侮辱は許さぬ」というイワン4世のカメラ目線で映画は終わる。 おそロシア。

強力な権力を礼讃するプロパガンダ。
そう感じられるけど、スターリンは第2部を猛烈に批判したという。

どういう点が問題だったのか調べたところ、貴族への恐怖政治に否定的な描写がNGだった模様。
 
そこまで否定的とは思わなかったけど、スターリン的には、観客がイワン4世が行った虐殺を受け入れられないような作り方はダメで、虐殺を盛大に正当化していないと、この映画を自分がしている粛清の肯定的役割として利用できないからなのだろう。

今のロシアに通ずる思想が随所に見られ、その根深さを感じる。何世紀にも渡る、諸外国からの侵略の恐怖心と絶対不可侵の強い自国防衛の思想が、今日のロシアを形成しているのだと感じた。
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