日中戦争の最中、中国共産党の八路軍に医療的支援を行ったカナダ人医師べチューンを描いた伝記物。文革前夜に作られたプロパガンダ映画の一つである。
カナダ共産党から派遣されたヘンリー・ノーマン・べチューン医師が、ロクな手術器具はおろかまともな外科医すらいない厳しい環境下で、八路軍の人々と交流を深めながら時に厳しく、時に優しく医療技術を広めつつ、人命救助を第一に考え、中国を侵略する日本軍のファシズムに仁術で抵抗するお話。

プロパガンダ映画特有の無駄に高揚した共産党賛美描写はあるものの、戦争シーンよりは、人を救いたいと思うべチューンの熱い思いと、それに応え医療知識を一生懸命覚える八路軍の人々との医療ドラマに軸足が置かれている為、それほど鼻につかず観ていられる。とは言えそれほど面白くはないけど。

日本軍もたまに出てくるが、今の抗日ドラマのようにくどい反日描写は一切なく、たまに撃てー！とか進めー！とか言うだけなのでトンチキ日本観もほぼない。リアルタイムで日本との交戦を経験した世代が多く残っているせいか、日本軍将校が発する掛け声も妙に生々しい。

本作は1964年に製作されたが、実際には党中央部の検閲を通らず、毛沢東の腹心、江青が難色を示した為にお蔵入りとなり、四人組の逮捕と共に終焉した文革後の1977年、10月1日の建国記念日までその公開を待たねばならなかったが、娯楽に飢えていた当時の中国人にはそれなりに受けたようで、中国の中高年の間では今でもべチューンといえば本作で主演したジェラルド・タンネバウム（谭宁邦）が思い浮かばれるとか。

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