湯っ子

SOMEWHEREの湯っ子のレビュー・感想・評価

SOMEWHERE(2010年製作の映画)
4.0
ダラダラ〜と眺めてるのにちょうどいいと思った。今日はこたつでウトウトしたかったから、すでに一度寝落ちしていたこの映画を再生。

ホテルの部屋に双子のポールダンサー、さすがに狭いスペースにしっかり筋肉がついたボディが躍動する様子はとても窮屈そう。それを上の空な顔して見てる主人公の顔が映った時から、あ、この映画好きかも、という予感はした。ダンサーが慎ましやかな金属音を立てつつポール(折りたたみ式で持ち運びオッケー)をしまうところなんか良いんだ、なんかワビサビを感じてしまうのよ(たぶん違う)。

主人公はどうやらハリウッドスターでホテル暮らし、今は腕を怪我してギプスをはめてる、それが外れるまでのわずかな期間を切り取った映画みたい。もう本当にかわいい、とにかくかわいいエル・ファニングが主人公の娘、11歳。こんなふうにパパと一緒に過ごせたのは、この夏のこのひとときだけだったのかもしれない。

主人公はハリウッドスターにしてはもっさりしていて地味。だけどスキだらけのこの感じ、モテるのはちょっとわかる。それに、プールの中でお茶会したり、眠れない夜ベッドに入ったまま、アイスを全種類並べて一緒に食べたり。たぶんこの夏のパパは、この子にとって最高の恋人だったと思う、そのあと出会ったどんなボーイフレンドよりも。
そして、このひとときの後に、どんなにつらくて悲しいできごとが待っていたとしても、否だからこそ、この夏の思い出が特別なものになったんじゃないだろうか。

この主人公は空虚で自堕落。スターな彼には誘惑もたくさんあり、それはもう律儀と言っていいほど、いちいち誘惑に乗る。それは現実の虚しさや孤独感から逃れるためなのか。でもその一方、娘を愛おしく思う気持ちは本物で、画面からはみ出すほどあふれている。

私の父はもちろんこんなセレブでもなく浮気男でもなく、私もエルのような超絶美少女ではなかったけど…ふと、私も父にとっては、こんなふうにこの上なく愛おしい存在だったんじゃないかと思った。そうしたら、急に胸が締めつけられるように感じて涙が止まらなくなった。これは自分でも、本当に思いがけないことで驚いた。
湯っ子

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