櫻イミト

テロリズムの夜/パティ・ハースト誘拐事件の櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.5
ポール・シュレーダーが「Mishima」(1985)に続いて監督した事件実録映画。1974年、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(「市民ケーン」のモデル)の孫娘パティ・ハーストが過激派・シンビオニーズ解放軍(SLA)に誘拐された末に組織の仲間入りしてしまった事件の映画化。

非常に興味深い事件で本作もずっと気になっていたのをようやく鑑賞。パティ本人の回想録を元にしていてストーリーも本人視点で進むため事件の全貌は判りにくい。しかし、誘拐や監禁状態を映像で追体験することでストックホルム症候群や洗脳が実際に起こりうる可能性を感じることはできた。VHS視聴で映像も音も不明瞭なこともあってか全体的にキレのない印象。過激派組織SLAの行動も刹那的で少々チンケに描かれているので、キレがないのは監督の演出方針だったかもしれない。同事件のドキュメンタリー映画「パティ・ハースト誘拐 〜メディア王令嬢のゲリラ戦記〜」(2004)を観るとSLAが起こした事件の大きさがわかる。

当然のことながら「実録・連合赤軍」(2008)を連想する。これらの事件を「理解しがたい」と思考停止するのは想像力の放棄だ。善悪ひっくるめて人間のあらゆる可能性を理解するヒントにできるのが”映画”であり、映画鑑賞の面白さだとあらためて思う。

2022.12.06高画質にて再鑑賞
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