Jeffrey

肉体の悪魔のJeffreyのレビュー・感想・評価

肉体の悪魔(1986年製作の映画)
2.8
「肉体の悪魔」

冒頭、ここは中庭のあるローマの高校。パスリコの詩の授業、屋根上での黒人の自殺寸前模様、テロリストの父、婚約者、患者、卒業試験、憑依。今、狂気に満ちた愛の物語が始まる…本作はレイモン・ラディゲの同名の原作を大巾に改変し監督のマルコ・ベロッキオがエンリコ・パランドリと共同執筆した作品で、昔に発掘良品の中でレンタルして1度鑑賞したが、この度DVDを購入して再鑑賞した。 87年に日本で初公開され、2014年「マルコ・ベロッキオ特集上映」にて再上映されていた。この「肉体の悪魔」は幾たびも映画化されている。


さて、物語はジュリアの婚約者ポルチーニはテロ事件に関与し、法廷で審判を受けていた。彼は仲間を裏切って早い出生目論んでいる。ある日の法廷、檻の中に入れられたテログループが騒ぎ出すと、その中で1組の男女が抱き合い始めた。


本作は冒頭から魅力的である。学校を固定カメラで上空から撮影する。レンガの広々とした屋根の上に白いワンピースを着た1人の女性が歩いてくる。続いてカメラはクラスのへ。学生が彼女に気づく。教員はパスコリについての詩を話している。そしてその少女が大きな声で怒鳴る。それに気づいた教員と生徒たちが窓際へ行く。少女は1人何かをしゃべっている(黒色人種)。生徒たちのクローズアップ、少女の泣きわめく表情、今にも飛び降り自殺をしようとする。必死に彼女を引き止める地元のカトリック神父。

続いて、この騒に目覚めた1人の少女がバルコニーから覗く。そして騒いでいた黒人の女性は静かになりカメラ目線でこちらを見る。その白人の少女と黒人の少女の間に妙な間があく。何とか自殺しようとしていた少女は確保される。続いて、クラスから1人の男子生徒(アンドレア)が外に出てバイクに乗りどこかへ向かう。トンネルを抜け、1台の車の後を追う。その車から降りたのは2人の男女、手には花束がありテロの凶弾に倒れる大佐の墓に手向ける。

続いて、裁判所らしき場所へやってくるその2人と少年。ここではどうであろう犯罪を犯したテロ組織のグループの裁判が行われているようだ。その被告人に会いに来たらしい。それを席に座りじっと眺める生徒、笑いながら手を振り笑顔になるその女性。カットは変わり、男子生徒(青年)がバイクに乗り裁判所へ行く(この時は既に翌日の話)。


裁判所の中にある檻の中で男女がイチャイチャするシーンに変わる。それを見ていた女性が生徒の青年に近づき会話をする。ここで彼女は初めて自分の名前を明かす(ジュリアン)。そして檻の中で接吻している場面を見られて警官がそれを止めに入り大騒ぎになる。それでも愛し合うことをやめない2人、檻の中にいる他の受刑者がそれを必死に止めようとする。そして生徒と女性は走ってその場から退散する。カメラは接吻する2人を最後に捉える。

続いて、どこかのホテルに到着した先程の2人(生徒とジュリアン)。青年はおもむろにそこにあったピアノを弾く。どうやらここはホテルではなく彼女の家らしい。 2人は笑いながら戯れる。カットは河を写し、そこでボート漕ぐ海パンいっちょの生徒とジュリアンの姿。 2人は笑いながら楽しむ。そして青年の母親が食事時にも帰宅せずに電話の1本も寄越さない息子を心配し電話で相談するシーンへと変わる。

父親は息子のアンドレアに精神異常の女と付き合うのはあまり良くないと言うが、青年は初めて恋をしたんだと父親に言う。やがて物語は 2人の肉体関係を追う…と簡単に説明するとこんな感じで、憑依されていく人間関係が映されている。



5年ぶり位に再鑑賞した。特に面白い作品では無いが、今回3本セットでわりかし安い値段で売っていたのでついつい購入してしまった。一番の目玉は「ポケットの中の握り拳」でこれは最高だったが、残りの2作品はやはり個人的には普通の評価。といってもこの超作品つまんないと言うわけでは無い。

この作品タイトルからして人間の体に悪魔が憑依したと言う事かと思ってみたのだが、基本的に主人公であるアンドレアとジュリアの2人の関係性の中に悪魔的な事はほとんどない。ただ年下と年上の恋愛と言うだけだが、冒頭に出てくる黒人女性の狂気に満ちた自殺をしようとする事柄に対しては、彼女の体に悪魔が憑依して何かをやらしてると言う事は理解できる。だが、彼女が出てくるのは冒頭のシークエンスだけで、その後は出てこない。ただ、何かしら不吉なことを予兆するような演出なのかもしれない。

とは言え、その冒頭でジュリアが彼女と目線を合わせて何かしらに惹かれている様子が捉えられている分、何か悪魔的な事柄が憑っている可能性もある。実際にジュリアはその黒人女性に魅了されていたし、劇中の中盤あたりでお皿を床にぶちまけたり、笑ったりしたりするので、基本的には何かしらに憑依されているような、今までとはまるで違う人格になっている面も窺える。

それが数珠つなぎのように連鎖されていくところが面白い。最初に黒人の女性、そしてジュリア、そしてその狂気に満ちたジュリアに対して精神と肉体に魅了されていく男子生徒のアンドレアが徐々に深い関係に入っていく事だ。そして物語に出てくる狂気を象徴とする満月(ルナ)がこの物語の本質を全て語っているかのようにも見える。まさにルナティックな映画だ。
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