差別を恐れて、自らを偽って生きてきた主人公の、老いらくの恋。しかし恋人は、一人の人間には重すぎるほどの悲しい過去を抱えていた。
原作での奥行きある人物設定のすべてを、映画では明らかにされてはいないという。映像や台詞による説明の放棄は、「悲しみは測れない」という台詞につながるのだろうか。どんなに表現を尽くしたとしても、人の悲しみはありのまま分かち合うことはできないと。
自由のために変身しようとする主人公が、その行為の代償を払わねばならなくなる悲劇。しかし最後にはほんの少しの救いがあって、分かち合えない悲しみを背負ったふたりは、幸せを分かち合う。
アンソニー・ホプキンスとゲイリー・シニーズが踊るのを、サンルームの外からカメラがドリーショットで追う。そのダンスシーンには独特の時間が流れていた。