Eike

ザ・ウーマン 飼育された女のEikeのレビュー・感想・評価

3.3
一応カテゴリー的には「ホラー」になるのでしょうがここの所、マイルドな作品が多くなって来たアメリカ製のホラー映画にあっては毒気をまき散らす意欲作になっていると思います。
まぁ、その分好き嫌いが分かれそうな作品でもあるのも事実ですが。

本作の特異な印象は監督のラッキー・マッキーと原作および脚本担当(マッキー氏と共作)のジャック・ケッチャム(最近亡くなられましたね)のコラボの成果と言ってまずは差し支えないと思います。
B級ホラー畑の職人監督とモラルや常識にとらわれない作風が持ち味の作家による共作が本作。
完全な低予算ホラーではありますが珍しくそこはかとなく「嫌ぁな雰囲気」が全編を通じて流れていて往時のアメリカン・ニューシネマの芳香が漂う(ような気がする)あたりが興味深い。
只のB級ホラー映画ではありますが猟奇テイストに対して「物語」を犠牲にしてはいない辺りの主張の強さは魅力的。

本作、見かけに反してどぎつい描写が満載のバイオレンス描写を売りにした作品ではありません(だから逆に物足りないと言う方もいらっしゃるでしょうね)。
お約束的な残虐描写もクライマックスに盛り込まれている程度で、その描写自体も近頃のホラー映画に比べればおとなしいもんです。
にも関わらず本作が異彩を放つのはその異様な物語が持つおどろおどろしさがある種のパワーとして見る側に伝わるモノとなっているからです。

本作はケッチャム氏が発表した小説「オフ・シーズン」の映像化の流れの中から映画用にオリジナルで展開された作品です。
「人食い族」の生き残りの女性(名前などない)を”手に入れた”地元の名士(笑)が家族を巻き込んで彼女を”調協”しようとする…。
と、まぁ相当にトチ狂った展開のお話ではあります。
では彼女に加えられる暴力や虐待がメインの猟奇ホラーなのかと言えばそう言う訳ではないんですよね(勿論そういうシーンも出ては参りますが)。
物語はこの狂った状況を抱えたある家族の「ゆがみ」に焦点が当たっており、外見上は恵まれて見える彼等の暮らしぶりのうそ臭さに対してシニカルな視線が注がれております。
文明的な生活を送るこの家族にも「秘密」があり、一皮むけばウーマン同様に”けだもの”と変わらぬ本性があるのだ。

クライマックスにはカタストロフィが展開されることとなりますがその過程で我々は大いなる闇を目撃することとなります。
そして訪れる破壊と粛清。
物語は新たな「家族」創成を予感させて幕を閉じます。
かなり強引ですが必然とも思える納得の展開。

このラスト以外に直接的なホラー描写はそれほど多くもありませんが演技陣の好演とねっちりと描写される心理劇を通じて高まるテンションをくみ取った好演出。
やはり主演の”ウーマン”を演じたポリアナ・マッキントッシュ嬢には賛辞を送りたいです。
彼女の目に宿る野生と憎悪がもたらす破壊のカタルシスは意外に大きく、結果的にホラーの醍醐味を味あわせてくれます。

マッキー監督といえば「 怨霊の森」というB級ホラー作品でもきちんと物語を提示する力量を見せており、今回のこの作品の出来からも確かなモノを感じさせてくれました。
そろそろ脚光を浴びても可笑しくないと思うのですが頑張っていただきたい。
Eike

Eike