かなこ

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日のかなこのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

美しいだけでは終わらない、深く深く考えさせられる作品。
深く考えるととても残酷な話だけど、それを感じさせない映像美、比喩表現、構成が素晴らしい!
ファンタジックで美しい映像も、物語の全容を知るとパイの心象風景だったのかと、なんとも切なく思えてくる。

観終わった後実話だったことを知り、それから振り返るといろんな考察ができる。…と思ったんですが、実話じゃなかったんですね。
漂流し、食べ物や飲み物がない極限状態の中でどう生き抜くか。動物は本能に従って自分が生き残るために弱い動物を食べるが、それが人間だったら…
信仰心が強く理性を持つ人間のパイと、生物本来の本能の現れであるトラ。パイは、自分が生きるためにしたことに対して、トラと自分とを切り離して考えなければ受け入れられならなかったのでは…。
考えることができる人間だからこそ、「生きる」という生物のいちばんの目的を簡単には果たせない。人間であることは幸せなことであり、ほかの生物からしてみればおかしな生き物なのかもしれないと思った。

追記
一度目の鑑賞では人食い島についてはよくわからなかったが、もう一度観ると人食い島は、パイが生きるために人を食べ、安らぎを得たことの比喩だという考えに行き着いた。
人を食べたことで自分の動物としての本能を受け入れたパイだったが、人としての理性、倫理を取り戻そうとしたことが、「ここに居続けてはいけない」と島を離れるという比喩だったのではないだろうか。
人食い島がビシュヌ(此の世を維持する根源となる神)の形をしていたことから、自分の命を維持する方法=人を食べ生きることに結びついているのでは。
過去に人食い島に住んだ人がいたという設定は、もしかしたらこの映画のもとであるミニョネット号事件が起こる前に、エドガー・アラン・ポーが書いた小説のことを意味しているのでは。

…いろんな解釈ができる素晴らしい映画!
かなこ

かなこ