けんさん

空気人形のけんさんのレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
4.0
舐めてかかると「チコちゃんに叱られる!」作品。

フォローさせていただいている方のレビューが気になり鑑賞したが、先入観を全く覆された良い意味で裏切られる大変奥深い良作だった。

人形が心を持つと言うセッティングは良くあるパターンかも知れないが、「空気人形」=「ダッチワイフ」が心を持つと言う奇想天外でお下劣感を感じさせるセッティングでスタートするので「この映画大丈夫かな?」と不安を持ってしまうが、なんのなんのさすが是枝監督。

ストーリーが進むに連れて「おいおい、ボッーと生きてんじゃねーよ!」とチコちゃんに叱られそうな「人間って何?」と言う大変重くて深いテーマを考えさせられるシーンが連発。

人形に空気を入れる数々のシーン。
また空気を抜くシーン。
人間よりも影が薄く映るシーン。
風景が腕を透き通って見えるシーン。

どれもこの作品が伝えたいメッセージが潜んでいると思うと納得感がある。

そして中盤、「もうクライマックスがきたのか?」と錯覚するぐらいの「空気人形」が説く感動的セリフが訪れる。

調べると、これは詩人である吉野弘の「生命は」と言う詩が引用されているようだが、敢えて下記に示すと、

"生命は自分自身だけでは完結できないようにつくられているらしい。
花もめしべとおしべが揃っているだけでは不充分で虫や風が訪れてめしべとおしべを仲立ちする。
生命はその中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ。
世界は多分他者の総和。
しかし互いに欠如を満たすなどとは知りもせず、知らされもせず。
ばらまかれている者同士、無関心でいられる間柄。
ときにうとましく思うことさえも許されている間柄。
そのように世界がゆるやかに構成されているのはなぜ?"

是枝監督がこの素晴らしい詩を引用したことも、是枝監督の凄さを感じた。

「みんな空っぽ」
この言葉が頭から離れない。

最後に「空気人形」を演じた主役であるペ・ドゥナの歩き方が本当に可愛かった。
けんさん

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