Aimi

さよならドビュッシーのAimiのネタバレレビュー・内容・結末

さよならドビュッシー(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

この作品には2つの秘密が隠されている。

1つは、主人公遥の周囲で続発する不可解な現象の秘密。これに関しては、観ていて大体予想できるので秘密が明かれた後も「ああ、やっぱり」ぐらいで大した驚きはない。

もう1つの秘密は、物語そのものに覆いかぶさられている秘密。物語冒頭で予想できる人と、公に明かされて初めてその秘密を知るものとにざっくりと分 かれる。そして後者は開いた口がしばらく塞がらなくなるくらいに驚くに違いないし、涙がボロボロ流れるに違いないし、今まで紡がれてきた物語の全様、遥が 口に出してきた想い、揺るぎのない「ピアニストになる」という意志の真の意味を理解して心が揺さぶられるに違いない。それはまさしく私である。その秘密が 明かされてから、涙が溢れて止まらなかった。

いくらネタバレありといっても、このネタバレをするのは憚れる。が、これからこの作品を観賞する方には、「ピアニストになって月の光を弾く」という 彼女のこの言葉、この意志に秘められている真実、思い出、悲しみ、重荷、重責、想い…そんな彼女の全てを、できる限り身体と心いっぱいに感じ取ってほしい と願う。この言葉がこの物語の全てであるといっても過言ではないし、この意志がこの物語に限りない優しさや哀しさを注ぎこんでいる。そしてそれらが言葉と して、音として、眼差しの強さや涙によって観る人の心に訴えてくる。胸が締め付けられるとはこのことだ。

主人公遥のいとこで、火事で祖父と共に亡くなったルシア。彼女の名前の意味は「月の光」。遥がどうしても弾きたいと言った曲名である。彼女の母親 は、ルシアに「月の光のように、混沌とした暗闇の中においても希望や感動を与える優しい月になってほしい」と願い、娘にその名を授けた。ホールいっぱいの 大勢の観客を前に演奏された「月の光」は、その母の願い通り、ホール内の観客ばかりでなく、スクリーンを通した私達観客の心にまで響き渡り、深い感動を与 える。

ミステリーとしてはとてもチープ。どちらの秘密も、そのジャンルの王道を行っている。けれどそこに隠されている真実の、何と哀しいこと。しかしとても強く、春の光のように暖かく優しい。

遥のピアノの教師、岬洋介を演じたのはピアニストの清塚信也。演技も素晴らしく、ピアノ指導をしているシーンの台詞が本当に生き生きとしていて、芸 術を趣味程度でも少しかじっている人であれば、彼の言葉のひとつひとつがスッと心に優しく降り積もるのではないだろうか。音楽への愛に満ちていて、この言 葉たちだけでも涙が出てくる。遥がピアニストへの夢に少し挫折しそうになった時、彼は彼女をホールへと連れていき、こう諭す。

「自分のためでなく、誰かのためであれば、何十倍もの力がわいて、努力できる。君にはその誰かがいる。」

大切な誰かがいれば、私たちはその誰かのために強くなれる。そしてその強さは「自分のため」よりも遥かに強いのだ。

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