南森まち

風立ちぬの南森まちのレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
3.4
飛行機の設計士になることを夢見ていた主人公は、夢がかなって戦闘機の開発に携わっていく。そんな中で妻が病床に伏し、戦火が激しくなっていく…というお話。

映像は「風や飛行機の表現などの絵がいつものジブリでキレイ!」だが、「紅の豚」から進化したかというとそんなことはない。それよりも、この主人公をテーマとした話として、描いている内容がズレていることが気になる作品だった。
この作品は「周囲を顧みずにやりたいことをしてそれでも才能を愛された」というキャラクターを描く物語。それは堀越二郎でも堀辰雄でもなく、宮崎駿を描いていたのだと思う。

ストーリーは分かりやすい。しかし内容はバラバラに崩壊している。前半は若きエンジニアの夢と、忍び寄る戦争への脅威がテーマ。なのに、後半は突然恋愛ものに終始する。
「堀越は西回りで他の国(の技術)を見て回るように!」と命令されて行ったはずなのに、次のシーンはいきなり日本のサナトリウムに居てビックリした。ヨーロッパ、アメリカ歴訪はカットされたのかもしれないが、欧米歴訪の成果に触れることもなく新進気鋭の開発者が山の中でなぜ静養しているのかをまったく説明しないのはまったく意味がわからない。

おそらく、原作小説「風立ちぬ」に無理やり寄せるためなのだろう。しかし、そこをうまく融合させて自然に見せるのがストーリーテラーの役割だと私は思う。その役割を放棄しているので、監督の描きたいシーンの羅列になってしまっている。

本来、この物語の形式は、飛行機製作の壁にあたったり、愛と病魔と夢の間で悩んだり別れたりして起承転結するのが、正道だと思う。
しかし本作はフツーに飛行機づくりも恋愛もさしたる出来事もなく淡々と進み、のっぺりした作品になってしまった。

実在の堀越二郎の「飛行機の空力的平滑化にのめり込み、多数の戦死者を出る中で本人は1978年まで長生きした」人生に絞ったほうが、絶対面白い作品になったと思う。そうすることによって、キャッチコピーの「生きねば」が活きてくるんじゃないだろうか。

ところが本作の二郎は苦悩しない。図面を引かせりゃ天才と褒められる、ヒロインと出会えばすぐに互いに好きになる。戦争の脅威もあまり描かれないし、彼が彼女のどこを好きになったのかも分からない。そして主人公はただ「きれいだ」を連呼するだけ。好きだとも言わない…顔なの(笑)?

彼女の良さもあまり表現されない。正直あんなやり取りだけでは、視聴者に彼女の良さは伝わらない。恋人の結核要素はそのまんま堀辰雄の「風立ちぬ」から持ってきているのでオリジナリティもない。
あと堀越二郎はお見合いで結婚して6人の子をもうけているので、完全に客へのお泣かせ要素としての結核。結核や戦争で亡くなった人びとの扱いをこうやって「使う」のはあまりに哀しいと思った。

この映画の本来のテーマは、作中で主人公の上司が怒っていたように、彼の「功罪」を語ることだったと思う。自分が好きなことをして生きる、ということと身勝手、ということは一緒。そのバランスが人より崩れていて何が悪い!というテーマ性は面白い。
でも脚本がツギハギだらけで一貫性がないため、わたしにはワクワクもドキドキも感じられなかった。