麩

風立ちぬの麩のレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.0
公開当時、高1の私は1人で見に行きサッパリわからんな〜こりゃ駿のエゴだなと思って帰ったけど、
あれから8年経って見返してみたらあまりにも、あまりにも美しい大傑作で、高1の時の自分って自我というか思考というかとにかく人間としての脳を全く持ち合わせていなかったんだなと思った
ユーミンは高1の時に、小学生時代の同級生の死から影響を受けて「ひこうき雲」を作ったのに
自分ってまじでしょうもないな

宮崎駿の作品はどれも純粋な子供が主人公のことが多く
ポニョの宗介とか、アリエッティの翔とか、「これは駿なんだろうな〜」と、
ほんと宮崎駿自身がきっと少年なんだな…
トトロみたいな、子どもにしか見えない景色、子どもにしか行けない世界にずっと居られる才能を持った人なんだろうな〜と
彼の見せてくれるセンスオブワンダーにいつも、ちっぽけな心を揺さぶられてきたけれど
そうやって、子どもの世界のワクワクや子どもの視点のキラキラ、かっこいい、をずっとずっと持ちながら世界中に作品を届けてきた人間が最後だと決めて作ったものがこれって

あまりにも美しいだろーーーー

あまりにもまっすぐな愛の物語で
あまりにも広大なロマンの物語で
今までのジブリ作品にはない切実さが瑞々しく、神々しいほど美しかった

演出、脚本、ことばのひとつひとつ、声優、アニメーションやCG…この作品を構成する要素の全てがこれまでの経験で磨き上げられた総力戦といった感じで
0.1秒たりとも、美しくない瞬間がなく
●メガネをかけた横顔を映した、二郎が目で飛行機を追うカットでの、メガネにうつる歪んだ瞳と実際の瞳とが歪みまで連動してなめらかーに動くシーン
とか、
●二郎が追いかけた紙飛行機が空に舞いあがり抜けるような空と雲が映し出されるカット
とか、
アニメーションってここまで出来るのか、と
どんだけ描き込んだんだろう、
どんだけの人が心血を注ぎ込んだらこんなふうに飛行機が飛ぶんだろうと思って、それだけで泣けてしまった

あと
●夢と現実の幻想的な切り替わり
●夜だったのが転んだら真昼の草原に変わりそのまま起き上がりながら見上げると夢の飛行機が飛んで人々が笑っているシーン
●冒頭の地震の演出
・ハァーーという神さまの吐息のような音とともに街が影につつまれて建物も線路も波のようにうねるところ
・地震が起きたということを言葉なしに伝える、列車から飛ぶ火花の勢い
・地震が起きた後火事とともに異様な、不気味な音がして人々が恐怖にざわつくシーンのあの音
●何度も様々なかたちで挟まれる、二郎が空を見上げたときに戦闘機が過ぎって見えるシーン
●何度も夢のなかでおこる博士との邂逅
●ドイツ人に「わすれる、わすれる」と畳み掛けられるシーン
●菜穂子が山へ戻ってその意味が伝わったこちらのやるせ無さ、悲しさがMAXになってるタイミングでシーンが切り替わり念願だった二郎の飛行機が大空へ飛び立つシーン
●ぐしゃぐしゃになったテスト機のまえで立ち尽くす二郎の、たったワンカットで飛行機づくりと戦争へ加担することとの葛藤を伝えてくるシーン
●「零戦が完成したことで多くの命が奪われ、そして戦争が終わった」ということをあらわすのが
「たちのぼる真っ黒い雲の奥に青空がのぞき
そこへ鳥のように飛行機がたくさん飛んでいき→真っ黒な雲を越えたら、まるで星空のように、夜空にたくさんの飛行機が浮かんでいる」というほんのわずかなワンシーン(言葉一切なし)
etc…書き出したらキリがないのでもうやめるけど
とにかく演出がうますぎる
今までのジブリ作品であまり見なかった、テクニックを駆使した切り替わりが鮮やかで美しい

そして脚本、脚本力
脚本家はやおの集大成
「タバコ吸いたい、ちょっとだけ離していい?」「だめ、ここで吸って」って二言だけで
2人がどれだけ愛し合っているか
菜穂子の命の期限に対して2人がどれほどの覚悟をして受け入れているのか
国の未来を背負うほどの存在である二郎が、両手ではなく片手で仕事をして、もう片方の手で愛する人の手を握るということの意味を
びしびし伝えてきて
ここで吸ってって言われて 気持ちよさそうにスパーとふかす二郎が悲しくて
でもあまりに幸せそうな2人で
全編通して
愛とはなんたるかを言われてるような

結婚式のシーン
あまりにも美しく悲しくて
最期は1人で山へ帰る菜穂子の顔を映してくれないのも
格好良すぎて

黒川さんと服部さんが
二郎が夜に後輩たちを集めて自主研修会を開いているのを覗いた帰り
「いやー面白かったなぁ」
「感動しました」
あの2人も純粋な設計士なんだと
飛行機作りにロマンを感じ両翼に夢を乗せている男なのだと感じてぐっときた
あの年で、若い後輩の作品に「感動しました」って素直に言える黒川さんが格好いい
そして「機関銃を積まなければ飛べるんだけど」とこぼした二郎に対して
わはははって一斉に後輩が笑うの
この時代のその戦争への感覚にゾッとするし
みんなが笑う中「もったいない…」と呟く黒川さんの二郎への理解の深さ

全部全部全部が素晴らしく
美しく
情熱と技術と愛情が結集した作品で
本当に全てにいちいち言及したいんだけど
もうねむたいから終わり
1:00 AM Jan 11th,2022
麩