かーくんとしょー

風立ちぬのかーくんとしょーのネタバレレビュー・内容・結末

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2019年4月現在、宮崎駿監督最後の長編アニメーション。劇場公開後、映画館で三回くらい鑑賞。
2019年4月12日の地上波放送でも観賞。

作品の内容は、零戦の設計者として名高い堀越二郎の人生に、堀辰雄の名作「風立ちぬ」(と所々で「菜穂子」)を重ね合わせたオリジナルストーリー。
声優に映画監督である元弟子の庵野氏を採用したり、作品全体で効果音を人の声で表現していたり、集大成でありつつ実験的側面を併せ持つ意欲作。(後者は既にジブリ美術館で公開している短編映画「やどさがし」で採用していた手法。)

主人公が高学歴エリート、恋人が死の病、男は仕事を優先、女は献身的に尽くす、少年時代からの夢を叶える、男同士の友情、欧米に追いつけ追い越せといった、非常に日本人好みするストーリーのお約束が詰め込まれ、観賞者は安心して見ていられる。
また、だからといって新しさがないわけではなく、理系のエンジニアが主人公というのはなかなか考えられているし、結局敗戦でズタボロになる結末は、一転してお約束から離れていて面白い。

庵野氏を声優とした点は賛否両論で、どちらかというと否定派が多いように見受ける。
個人的には、理系で「超」の付く天才というのは、案外ああいった変人のような話し方の人間が多いと実体験として感じており悪くはないと思っている。とはいえ、下手くそすぎるシーンのオンパレードだが。

最も好きなシーンは、結核で病床にいる菜穂子の隣で二郎が仕事をし、耐えきれずにタバコを吸うシーン。
結核患者の隣で非常識な!と普通は思うところだが、あるかもわからない(あってもどうせ長くはない)あやふやな未来の時間より、実感できる今この時、この繋いだ手を一秒たりとも離したくない、そんな二人の想いが静かな場面の中に結晶しているように思えた。

宮崎駿監督作品は絵もだいぶ昔と変わってしまったし、上記の声優や効果音の問題もあり、苦手意識を持つ人もいると思う。
ただ、それでもみんな大好きな宮崎監督が集大成と位置付けた本作には、彼を語る上で絶対に欠かすことのできないメッセージが、おそらく意図的に、そして多分に含まれているのは間違いない。
例えば、二郎が夢の中でカプローニと会話する内容--「創造的人生の持ち時間は10年だ」とか、本庄との会話にある「小さくても亀になる方法はないのかなあ」とか。

本来、芸術作品は単体として評価すべき独立性を有している。集大成だからといって最高の作品といえるかはわからないし、実際私もそうは思わない。
だが、もしこの作品が本当に宮崎監督の最後のオリジナル長編になるようであれば、少し感傷的な見方になるにしても、鑑賞者が彼の思想の海に少しの間浸るための、最高の受け皿となる作品は本作ではないだろうか。

written by K.
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