つのつの

シュガーマン 奇跡に愛された男のつのつののレビュー・感想・評価

4.5
1970年代初頭、アメリカでは全く売れずに引退した歌手ロドリゲス。
しかし彼のレコードは巡り巡って南アフリカに流れ着き、現地のアパルトヘイト抗議運動家の若者たちに熱狂的な支持を集め、南アフリカでは国民的な人気を誇っていた、、、。

という奇跡体験!アンビリーバボーみたいなドキュメンタリー。
知名度は高いとは言えない作品かもしれませんが、いわゆる「普通に」面白く感動できる映画なのでオススメ。

自分たちのことを鼓舞してくれたアーティストの消息を知りたいという執念の下、必死で情報を搔き集める南アの人々と、
ロドリゲスのかつての挫折が、
報われるクライマックスの展開には目頭が熱くなりました。
大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、こんなに素敵な奇跡が起こるなんて人間や世界捨てたもんじゃねえと思えました。

音楽のことはよくわからないので、ぶっちゃけロドリゲスとボブディランの歌がどう違うのかなと思わなくもないですが(I wonderは超好き)、ライブ会場を埋め尽くす観衆たちがロドリゲスの登場や彼の演奏が始まった瞬間にあげる大歓声と拍手(中には涙を流す人もいましたが)に鳥肌が立ちました。

これって、音楽に限らず芸術全てに普遍的に起こりうることじゃないですかね。
映画にしろ本にしろ、海や大陸を飛び越えて全く関係のない世界の誰かを勇気づけてることってそんなに珍しくないですよね。
例えば、ヴィクトールフランクルの「夜と霧」は、アウシュビッツ収容所を体験した人だけでなく、それとは全く関係のない、けれども同じ絶望や苦悩の中にいる人に時代や国境を越えて支持され、名著となっています。
こういう表現の波及というものの強さ、素晴らしさ、あと数奇さにはどうしても感動してしまうんです。

ロドリゲスが、あれほどの奇跡に巡り会えても再び元の生活に戻っていくのまた良い。
彼はデビューアルバムを作った時のことを聞かれて「ベストは尽くした」と答えましたが、それは歌手を引退した後の人生にも同じことだったのではないでしょうか。
だから3人の娘を、博物館や美術館に連れて行ってできるだけ良い教育を受けさせようとした。
それは、例え社会的に見れば挫折や敗北で片付けられるような人生でも、ロドリゲスにとっては、彼の音楽と同じくらいかけがえのない大切なものだったのでしょう。
それを思うと、寂れた街を1人で楽しそうに歩くロドリゲスの姿がなんとも愛おしくなります。
万人にオススメできる傑作!
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