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ボクたちの交換日記のodyssのレビュー・感想・評価

ボクたちの交換日記(2013年製作の映画)
4.5
【予想を裏切る(失礼!)傑作】

予想をいい意味で裏切ってくれる映画でした。うれしい誤算、かな。

この映画、まず主役二人のキャスティングで成功していると思います。陽気でいかにもお笑いに向いていそうな小出恵介。むっつりしていて内向的、お笑い芸人なんか勤まりそうもない伊藤淳史。この対照的なコンビが、しかしお笑いコンビの内実だとか裏事情を表現するのにきわめて有効に作用しています。

お笑い芸人は日頃から可笑しなことばかりしているからできる、というものではありません。江戸時代の滑稽譚といえば、弥次さん喜多さんの『東海道中膝栗毛』ですが、作者の十返舎一九と一緒に東海道を旅しても、全然面白くなかったそうです。それもそのはず。作者はお話に取り込むために道中は観察やネタ仕込みの連続で、他人を笑わせている暇なんかなかったのですから。

この映画でも途中でのネタの仕込み方や、見せ方の工夫など、お笑い芸人の仕事の内実をきっちり描いているところが説得性を高めています。基本的なところがよくできている、ということですね。

筋書きも、ありがちな感じではあるけれど、ちょっとひねったところもあり、一直線には進まない。脇役陣も非常に充実しています。仕事をもってきてくれる佐々木蔵之介、弱小プロダクション社長の佐藤二朗、行きつけバーのマスターである大倉孝二など、それぞれ持ち味を発揮しています。

それから女優3人が美形ぞろい。
小出恵介の奥さんになる長澤まさみは、最初は昼は薬局、夜はキャバクラに勤めて小出を支えている。うーむ、長澤まさみにこんな苦労をさせるとは、男の風上にもおけないっ、と言いたくなっちゃいますね(笑)。
伊藤淳史と仲良くなるのが木村文乃。彼女、アングルが決まったときはすごい美形です。ただ、いつも決まるわけではないところが惜しいかな。その点では長澤まさみのほうが安定している。でも実はこの映画、木村文乃が見たくて映画館に行った、というのが半分の真実なので、とりあえず満足。
小出恵介の娘役の川口春奈もよかった。これからが楽しみです。
3人は役柄としてはあまり重要ではありませんが、美形なので、出ているだけでよろしい(笑)。

最後に、以前新聞で読んだ話を書いておきましょう。

むかし、獅子てんや・瀬戸わんやという漫才コンビがいました(当時は「お笑い」とは言わなかった)。ふたりは最初から知人だったり友人だったりしたわけではなく、それぞれ別々に漫才を仕事にしたいと思って、名のある漫才師(これは同一人物)に弟子入り。その漫才師がふたりを引き合わせて、コンビを組むように指導したのだそうです。
そのせいもあり、二人は仕事やその打ち合わせのときに顔を合わせるだけで、プライヴェートな付き合いはほとんどなかったそうです。
ふたりがプロの漫才師として出発した頃、日本は漫才ブームに沸いていました。そして漫才コンビも多数デビューしたのですが、結局最も長期にわたって漫才コンビとして仕事をし続けたのは、獅子てんや・瀬戸わんやだった。獅子てんやは、「ふたりが仕事のときにしか顔を合わせなかったからこそ、長続きした」と回想しています。
つまり、友人同士がコンビを組むと、最初はよくても、やがて漫才ネタに対する考え方が違ってきたり、プライヴェートな付き合いの中で仲違いしたり、といったことが起こりやすいわけです。ビジネスライクに、漫才の仕事は仕事、プライヴェートはプライヴェートとして別々にやることが、コンビの長持ちにつながったのです。
友情と仕事、この双方を両立させることは、至難の業なのですね。
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