紅里

アンナ・カレーニナの紅里のレビュー・感想・評価

アンナ・カレーニナ(2012年製作の映画)
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美しい、清々しい、幸せな気持ちで観始めたのに、どうしてこんなにも、不快とまでは言わないけれど、絶望感の一歩手前にいるような感覚になってしまったのだろうか。前半だけなら、刺激的な情熱をゾクゾクと楽しむことができたのに、後半は違うなと思いながら観ていた。が、当初それがなぜなのか、わからなかった。答えは簡単で、人目を気にしながら視線を交わし、自分が人の妻であることを意識しながら平常心を保とうとし、それでも耐えきれずに秘密裏に体を重ねるから、この手のストーリーは美しい(美学がある)のであって、それが公然のものとなってしまっては、ただの罪人に成り下がってしまうからである。秘密は秘密にしているから美しい。醜態を晒せば魅力は無くなってしまう。そこに少し、幻滅した。一生隠し通す覚悟を持って会い続けるのなら、それは刺激的で美しい。ひとたび結婚してしまえば、そこに必要なのは、体面、経済力、価値観の合致、子供、理屈で考えなければならない不自由、束縛であるが、それが不倫ならば情熱だけで済まされる。愛さえあれば良いのだし、そこには自由、解放、刺激、ロマンがある。理屈なんてどうでもいい、ただ心で結ばれればいいだけ。アンナ達はそれを、離婚結婚とまで持っていってしまったから破滅したのでは。せっかくの隠れた自由を、自ら不自由へと引き入れてしまった。だから人目も気になるし、離婚という形式を乗り越える煩わしさが伴うのだし、子供という存在にさえ悩まされる。不倫するなら隠し通せ。公にするならお互いしか見るな。全てを捨てるなら、本当に全てを捨てなければならない。
と言っても、これらを考えられるほどの冷静状態ではいられないだろうね。
前半は美しかった。終始官能的で、その意味では全て美しかった。アーロンにあんな風に出会って、あんな風に見つめられて、あんな言葉をかけられたら、私は躊躇わず飛び込む。隠し通しますから、その幸せを分けて欲しい。
紅里

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